午後12時半、テニス部の一番手達を観察

 弁当を友人と食べ、やる事が無くなった私は何の気なしに廊下を見た。まだ昼食中で人が少ない廊下に男子生徒が2人立っているのを発見する。
 彼等はテニス部の一番手だ。梧桐章吾ごとう しょうごが後衛、山背修やましろ しゅうが前衛。別々のクラスである彼等が放課後以外で揃っているのを見るのは結構珍しいだろう。
 自然、視線がそちらへ向く。

「山背。お前に伝えなければならない事がある」
「はぁ?それ、昼休みに言わなきゃなんねぇ事なのかよ・・・」

 呼び出されたらしい山背くんが不満そうに問う。すると、至って真面目な顔で眼鏡を押し上げた梧桐くんが涼しい顔で言った。

「実は今週の土曜日、試合があるんだ」
「・・・何の?」
「お前は俺を馬鹿にしているのか?テニスに決まっているだろう」
「今日、何曜日か知ってっか?」
「水曜日だな」

 ぴきぴき、とそんな音が聞こえて来そうな程に山背くんの顔が引き攣る。しかし、それを意に介した様子も無く――というか気付いた風もなく梧桐くんはやれやれ、と肩を竦めた。

「本当は先々週ぐらいには知っていたんだが、言ったらお前が来ないだろうと思って今まで伏せていたんだ」
「意味分かんねぇよ!何それ新手のイジメ!?」
「実は大戦校は海塚高校だ」
「はぁあぁぁぁ!?」

 ――海塚高校。うちの学校、西桜高校とテニス部関係のライバル校である。土曜日の試合、と言ったら次の大会に繋がるそれなりに大きな大会だった気がするので気合いを入れるべき試合だろう。
 では何故、梧桐くんはそんな大事な予定を伏せていたのか。

「山背、当日腹が痛くなろうと来いよ。ドタキャンは無しだ」
「ばっ・・・!お前、その日俺、出掛ける約束して――」
「全てはお前がビビリで当日に腹を壊すのを防ぐ為だ。悪く思うなよ」
「嫌だぁぁぁ!言いたかねぇが、海塚絶対嫌だ!あいつ、マジふざけんなよ俺の顔面狙って来るんだよ当たったら痛ぇんだよ馬鹿ッ!!」
「ふむ。だが俺はお前の反射神経だけは尊敬している。というわけで、来いよ」
「ちくしょ・・・」

 ほとんど半泣き状態で山背くんががっくりと項垂れた。