運動部の方が辛そう。
運動部の方がキツいに決まってる。
運動部の方が過酷だけどカッコイイ――
そんな事を言う高校生は多いはずだ。彼等彼女等には決して悪気があるわけではなく、その部活風景を見てそう思う者、論理的に考えてそう思う者様々だが、そう言う人間は一様にして一度も文化部に入った事が無いのは確か。
それを非難するつもりはない。だが、辛いかどうかキツいかどうかは別として――過酷か否かと問われれば、私は迷うことなくこう答える。
――お前1回、文化部入ってみろよ、と。
私は新聞部兼文化部だ。もちろん毎日部活があるわけではない。文芸部は出来上がった作品を部員に紹介する時にだけ集まるので月曜日だけだし、新聞部は火曜日と木曜日、そして金曜日の三日間だけだ。文芸部の方と合わせても四日。
――が、集まりが無いからといって活動そのものが無くなるわけではない。
***
すでにクラスの半分ぐらいが教室に集まる中、私は自分の席に腰を下ろした。うちのクラス、2年4組はくじ引きで席替えをするのだが運良く一番後ろの窓際をゲット。授業中はもれなくクラス全体を見渡せる素晴らしい席になった。
そそくさとメモ帳、シャーペンを取り出し辺りを見回す。
学校に着いた瞬間から戦場に入ったも同然。クラスはネタの宝庫、廊下もネタの宝庫。
今日は水曜日で、ネタを集め新聞記事を編集、そして文芸部に提出する小説のネタをも集めるある意味一週間の中で最も大切な日である。この日を逃してしまうと記事が書けない上、ネタを拾う為に別の日を費やすことになり、小説の方もまるで進まないという悪循環が発生する。
さて――今回の記事は一体何を書こうか。
そう思いながら教室を見回せばその教室の中心。前後の席で話す男女の姿が見えた。
男子生徒の名前は
そして彼の後ろの席に鎮座する女子生徒。彼女は
「なぁ、今日帰りアイス買って帰ろうぜ・・・暑くて仕方ねぇよ」
「人志。あんた今日部活ってか毎日部活でしょ。この暑い中私にどっかで待ってろって言いたいの?」
「おう」
はぁ、と語尾を上げ怒気を孕む檜垣さんの声。当然だ。暑いとはいえ夏。暗くなるまで部活は終わらないのだから軽く7時は回ってしまうことだろう。そして家研部の活動は金曜日のみ。終礼は4時過ぎには終わるのだからどう足掻いても3時間は暇を潰すことになる。
それにしてもラッキーだ。毎日一緒に登校しているあの二人が教室へやって来るのは大概朝礼ぎりぎり。だが今日はまだ朝礼まで15分以上余っている。
新聞の記事には出来ない――プライバシーの関係で――が、彼等の会話は小説のネタになる。他にもネタ要員として勝手にマークしている方々もいるが、その中で一等まともなリア充は檜垣さんと草薙くんだけだ。それにしては若干殺伐としているが。
「なぁなぁなぁなぁ。帰りにアイス食って帰ろーぜー」
「煩い。図書室は5時までしか開いてないし、あんたがそんなにしつこいって事はお金持ってないんでしょ?あわよくば奢って貰おうとか思ってんでしょ?ふん、甘いね甘い。バニラアイスより甘いわ」
「おぉっ!スッゲーなお前。何で分かったんだよ」
「下心が透けて見えてるよ」
じゃあよ、と草薙くんが何かを提案するように人差し指を立てた。そして不敵に嗤う。一体どこからその自信は湧いて来るのだろうか。
「玲璃、お前さぁ陸上部のマネージャーになれよ。そしたら退屈しねぇだろ」
「馬鹿なの?私家研部なんだけど」
「週一しかねぇじゃん。丁度足りないって顧問の奴が言ってたような気がする。つか、マネージャー根性ねぇよ」
「当たり前でしょ。どうせ『ドキドキ!マネージャーから恋へ発展大計画!』みたいな奴ばっかなんだからさ。期待する方がどうかしてるわ」
長い黒髪を弄びながら檜垣さんはポツリと呟いた。
「じゃあ・・・そうだね、今日あんたが一度も授業中居眠りしなかったら待っててあげるしアイスぐらい奢ってやるよ」
「マジか。どうした玲璃・・・今日のお前、寛大過ぎて逆に恐ぇよ」
「前言撤回しよっかな」
「嘘だって、嘘!!」
――これは檜垣さんの作戦勝ちである。
多分きっと恐らく、ほぼ百パーセントの確率で草薙くんは寝るだろう。彼が授業中に起きているなどほとんど見た事が無い。
その会話をメモした瞬間、朝礼の始まりを告げるチャイムが響いた。