14.

 その後、教室に置いて来てしまった荷物を取りに行き――その際、担任教師に見つかってどこへ行っていたのかと問い詰められたが、ルシフェルがよく分からない言葉を呟くと教師はふらふらとどこかへ消えたというハプニングが起こった――無事、帰路に着いた。
 何だか長いようでかなり短い張り込み期間だったが、蓋を開けてみればただの勘違いによる不運だったなんて何とも言えない気分である。

「――結局、宇都野は誰を捜してたんだろう」
「さぁな。それよりも、俺としてはあの狐が情に厚いタイプだったことに驚きを隠せないが」
「まぁそれは・・・ね?」

 ただ実際、気になるものは気になるのだ。女子生徒ということしか分からないのも興味を惹く要因になったのかもしれない。というか、供え物の礼とか某恩返しアニメしか思い出せない。

「首藤先輩はどうしてルシフェルの声に気付いたの?」
「霊感がある方だったからだ、と言えれば簡単だが・・・奴は人外が視えない」
「それは知ってるよ。あんたにも全然気付いてなかったし・・・」
「回路が変な風にはまると視えはしないのだろうが、何か感じるようだ。ただ、本能的に違和感を覚えているだけだから本人も無自覚なんだろうが」

 ――難しい。何を言っているのかよく理解出来ない。
 つまり、首藤響弥という人間には霊感があるのではなく『違和感に気付く』というスキルを持っているのだろうか。

「それだけ聞けばお前の劣化版のような能力に聞こえるが、そんな事はないぞ。お前は人外にしか気付けないが、奴はそれ以外にも気付くということなんだから」
「・・・ふぅん。それ、霊感とはまったく違うスキルじゃん」
「だからそうだと言っている」

 磨けば光るのに、もったいない。とルシフェルが微かに笑った。

「何それ。止めてよね、今度はあんたが取り憑くつもり?ミカエルさん呼ぶぞコラ」
「いや、奴が要らないと言うのなら適当に取引でもして譲り受けようと思っただけだ。ああいう需要のあるスキルは持っていて損は無いからな。要らなければ誰かに売りつける事も出来る」

 何だか底知れない闇商売の真理を垣間見た気がして、六花は話題を変えた。女子高生が聞くには些かヘビー過ぎる話だったし。

「ま、今日はルシフェルもよく働いたし、夕飯食べたい物があったらリクエストしていいよ」

 赤く染まりつつある空を見上げながら言う。
 ふと、視線を感じて辺りを見れば、すれ違う人々が怪訝そうな顔でこちらをチラチラと見ていた。

「あ、俺の姿、視えてないから」
「・・・・」

 ――この野郎。
 その言葉が言の葉になる事は無かった。