「・・・ん?」
言葉と同時、人外は小さく首を傾げた。まるで、言っている意味を理解していないような仕草。ややあって、彼は肩を竦めた。
「悪いが、何の話か分からないな」
「いや分かるだろう、話の流れで!」
完全に傍観を決め込んでいる裟楠に視線を向けてもあっさりとそれを逸らされる。自分でどうにかしろという事らしい。とんだ放任主義だ。
仕方なく、事実を認めない人外へさらに詰め寄る。
「いいや、取り憑いているだろう、幼気な女子高生に!」
「女子高生?いや、別に女子高生なんて興味無いんだけどな」
「憑く相手に興味がある無いは関係ないと思うぞ」
「あるだろ。冴えないオッサンに憑いても何の楽しみも無いじゃないか!」
――話が驚く程脇道に逸れた。相手のペースに呑まれてはいけない・・・!
語気を強め、詰問する。この場で彼を逃がしてはいけない気がした。
「橘六花の事は分かるな?」
「あぁ」
「何で付きまとうんだ!」
「・・・んー・・・分からないものか?同族だろう、俺達って」
すっ、と赤い双眸が細められる。思わぬ威圧感に一瞬怯んだものの、そこで退く程、有真は出来た人間じゃなかった。だが、今ここで乱闘になれば痛い目を見るのは自分達である。そもそも、あまり昼間は好きじゃないのだ。
にやにや、と唇を――実に悪魔的に歪め、人外が嗤う。
「ん?ほら、素直に言ってみろよ。お前等、ハーフだろ?」
「・・・なら、お前は何なんだ」
「あー・・・そうだな、守護天使的な何か」
曖昧模糊な返事。というか、目の前の人外からそんな神聖なイメージはまるで感じないのだが。どちらかというと――
「あーあ・・・お前達、本当に可哀相だな」
爛、と人外の赤い瞳が輝く。
――あ。いかん。
本能的に危険を悟り、身を仰け反らせた刹那、先程からずっと黙り込んで存在すら忘れかけていた声が響いた。
「――おい。いいから、真面目に話をしろ。お前もだ」
喧嘩両成敗、と言わんばかりに口を挟んだ裟楠が、面倒臭そうに溜息を吐き、何らかのアクションに出ようとしていた彼は「残念」と嗤いながら前髪を掻き上げた。