翌朝、登校中の六花は小さな溜息を吐いた。
「おいおい、どうした朝から。辛気くさいなお前」
「・・・」
隣を歩くルシフェル。しかし、彼の姿は周りに認識されていないようだった。この間、人間デビューなどとほざいていた口はどの口だったか。さすがの異常事態に俺が着いていないとまずいだろう、などと宣っていたが本心はどうなのか甚だ疑問である。
――というか、異常事態を楽しんでいるに違いない。
「ねぇ、ちゃんと考えてる?相手がどんな人外なのかとか」
「うん?あぁ、それの事か・・・それに関して言うならば、実際、犯人はすでに割れているんだ」
「えぇ?誰?」
「そうだな――」
すっ、と堕天使は悪戯っぽい――あざとい笑みを浮かべて人差し指を立て、目の前で左右に振った。
「なら、敢えて言わない、という事にしよう。今知っても、良い事なんて一つも無いぞ」
「とっ捕まえて終わりでいいんじゃない?」
「エレガントさに欠けるな、それ。ちなみに、犯人の目星は付いているがトリックが分からない。ついでに動機も、な」
「動機・・・トリック・・・」
「そう!六花よ、お前だっていきなり現れた赤の他人に『お前が犯人だ!』と迫られて納得する事なんて出来ないだろう?」
「まぁ、そうだね」
そう考えてみると彼の言葉は至極正論であるのだが、釈然としない。誰が犯人なのか判明しているのならば、問い詰めるという方法もあるはず――あって然るべきなのだ。
何せ、彼等人外に人間界での法や常識は通用しないのだから。いつだったかそんな事をほざいたルシフェルが平気で万引きに手を染めようとしていた時には全力で止めた。今となっては懐かしい記憶である。
「おや、納得していないな」
「当然でしょ。人間同士が争ってるならフェアって言葉もあり得るけど、人間と人外じゃ、基本スペックがまったく違うじゃん」
「そうでもないだろうさ。とにかく、俺は藪蛇なんて突きたくないからな。様子を見てから判断した方が良い、とだけは言っておくとしよう」
くすくす、と性根の腐った実に悪い笑みを浮かべひらりと手を振ったルシフェルが掻き消える。何の為にここまで来たのかと本気で疑問に思った。