01.

 自宅のインターホンを押すだけなのにこれ程まで緊張するのは初めてでこれ以降体験したくないものである。だが、引き受けると言ってしまった以上、ここで唐突にやっぱり止めたなどという根性のない事は言うまい。
 震える指でインターホンを押す。鍵で開けても良かったのだが、中でルシフェルが何をしているのか分からないので、いきなり突入するのは躊躇われた。
 ややあって、インターホンから声が響く。

「何やってるんだ。早く入れよ」

 呆れ返ったような同居人の声。それを皮切りに、無言で六花は鍵を開けた。そのあまりにも深刻そうな顔に後ろから着いて来ている巴と響弥も首を傾げている。
 とにかくこのドア一枚向こうには本当の意味での魔物が住んでいるので注意が必要だ。
 ガチャリ、ドアを開けるとすぐそこにルシフェルが立っていた。何か言いたげな彼の目と目が合う。刹那――

「い、イケメンじゃないですかぁあああああ!!」

 まるで空気を読めない巴の叫び声が響いた。隣人は人間ではない。ので、あまり騒いだり波風を立ててくれるな。
 耳に響くシャウトを受けてルシフェルの顔が余計に歪んだ。

「・・・友達が来てるなら俺は出掛けてくるぞ」

 訳――狭いし騒がしいからどっか行って来ます。
 だがそういう訳にもいかないのだ。

「あー、えっと、ちょっとルシフェルに頼み事が・・・」
「うん?嫌な予感しかしないから却下したいのだがね」

 心底嫌そうな顔を隠しもしない彼の視線はそのほとんどが巴へ注がれている。未だに騒ぎまくっている彼女を宥めているのは響弥だ。
 それを見なかったことにし、軽く事情を説明。すると余計にルシフェルの顔が不満そうに歪む。

「何を勘違いしているのか知らないが、他人の為に働ける程、俺は出来た存在じゃないぞ。しかもムサ苦しい男・・・無い無い、絶対に無いな」
「・・・ミカエルさん呼ぶよ」
「呼べばいい。憑き物って事は奴を呼んだら一瞬でブッ飛んでくれるんじゃないのか?」

 埒があかない。仕方が無いので菓子千円分で手を打った。しかし、金を出すのは自分ではなく響弥だが。千円で憑き物落としが出来るのならば万歳ものだろう。