13.

「覚えてないとか訳が分からないよ」

 一通り回想を終えた響弥にそう言えば彼は頭を振った。そして心底困ったような顔をする。

「本当に覚えてねぇんだよ。実際、噂してんのは見てた周りの奴等だけで俺の意見は一個もねぇだろが」

 それだけがネックなのだ。確かに、数多くの尾びれ背びれが着いた噂を聞いてきたが、肝心の本人がどう思っているか、という核心めいた噂はとんと流れていない。六花自身は情報収集など専門外もいいところだが、巴は違う。彼女と有真がタッグを組んだ場合、校内で調べられない事件などあるのだろうか。
 そして何より――

「本当に何も?ちっとも?朧気にも?」
「あぁ!まったく、覚えてねぇ!」

 間違い無く彼等の言うオカルトだ。

「じゃあ、殴られたらしい方は?そっちは何て言ってるの?」
「向こうもよく覚えてなくて大事にしなてくても良いって言ってたぜ。ま、どっちも殴り合った記憶なんざねぇから仕方ねぇやな」
「えぇ・・・」

 いまいち信用出来ず、巴の方を見れば彼女はペラペラと調べたそれを語った。

「はい。首藤先輩の言う通り、殴られた方もよく覚えていないのと大事にしなくていいと言っています。本人の認識によると何か全身痛いとかその程度らしいですよ」

 どちらも覚えていない。
 その時の記憶だけが抜け落ちている。
 首藤響弥の人格から外れた行動。
 この症状には覚えがある。それも、大いに。まず間違い無くそうなのだが、何と伝えるべきか。