11.

 ――放課後の教室。人がほとんど帰って無人となった室内には異様な雰囲気が溢れていた。強いて例えるならばそう、お見合い独特のあの雰囲気と同窓会の雰囲気を綯い交ぜにしたような歪さ。
 というか、対峙している両者間で存在する確かな温度差が原因だと思える。
 冷え切った心中を暴露したい気分に陥りながらも、しかしそれ故に酷く落ち着いた穏やかな声で橘六花は問うた。

「・・・で?」
「で、じゃないですよぅ!」

 目の前に立つ友人、幸野巴が憤慨したように地団駄を踏んだ。

「おいアンタ、説明下手過ぎるだろ。俺が代わりに説明すっか?」
「いいです!貴方も十分下手くそだと私は思いますよ」
「んん?そうかね・・・?」
「いやでも、りっちゃんの理解力を以てすれば多分もう意味とか真意とか、その他諸々理解しているはずですよ!」

 友人の隣に立つ男子生徒は――誰だ。
 いや話の流れ的に恐らく、家研部部長、倉田桐谷か或いは暴力事件の当事者たる首藤響弥。出来る事ならば前者の方がいいが、あまり期待しないでおこう。
 ややあって、暴力事件と縁深そうな大柄なその人が口を開く。

「つまり俺が何を言いたいかっていうと、どうにかしちゃくれねぇか?もちろん、タダでとは言わねぇ!」
「・・・いや、あんた誰だぁぁぁぁ!!」

 あれ、言わなかったか、と首を傾げた彼はややあって満面の笑みで答えた。

「俺は首藤響弥。最近何故か噂に上りきりの2年だぜ。アンタの事は巴から聞いてるぜ?橘六花ってんだろ」
「えぇいや・・・そうだけど・・・ていうか、先輩・・・。何か勘違いしているみたいだけど、私はオカルトなんて良く分からないっていうか、あまり関わりたく無いというか・・・」

 縁がない、とは言えないので言葉を濁す。あまり嘘を吐くのが得意な方では無いし、何よりきらきらと子供のように無邪気な目で見られては後味が悪くて無理などと断れなかったのだ。
 つくづくお人好しだと思うが、自分の霊媒体質を思えば安易に解決してみせるなどと言えないのも確かだ。そもそも、彼はオカルトと信じて疑わないようだがその根拠はどこにあるのだろう?
 暴力事件としか聞いていないし、巴が先程から長々と話したのは彼女自身の情報収集日記口頭版のようなものだ。そこから一体何を解決しろと。
 いや待て、だいたい――

「何で私がオカルトに強いとか思ってるの、巴」
「え!?だって今日、りっちゃんがトイレ行ってる間に・・・」
「何?何で黙るの?」

 言いにくそうに視線をウロウロとさ迷わせた巴は意を決したように、口を開いた。

「有真くんと裟楠くんが二人で話してるのを偶然聞いちゃったんですが、何か、りっちゃんには何か『憑いてる』って・・・」
「駄目じゃん!何でこの人連れて来たの!?私憑かれてんじゃん!むしろ被害者!オカルト強い人が欲しい立場ぁぁぁ!!」

 巴の頭の悪さにはたまに絶句させられる。ちなみに、彼女のテストの点数は異常な数値を叩き出すのだが。何故かというと、巴のテストの山は絶対に当たる。彼女はその当てた山の一部だけを勉強すればいいので。

「ちょ、いいから1回黙れ、1年!」

 ばんっ、と机を両手で叩いた響弥の声により六花と巴の水掛け論は唐突に終了した。唐突な騒音に驚き2年の彼を見やれば真剣な顔でこちらを見返して来た。

「何かよく分からねぇが、とにかく頼む!俺は・・・」
「待って。本当に暴力事件だった場合は、本当に私じゃ手の打ちようが無いからね!?とりあえず、何があったのか説明を・・・あ。いやいや、私には関係無――」
「そうか!助かる、ありがとう!」

 つい響弥に気圧されて話を『解決』する方向で進めてしまったが――大丈夫か、これ。