「それで幸野、お前はどこまで調べたんだ?」
「えぇ・・・先輩の情報提供待ちですよぅ。何せ、主犯は2年生なんで学年違いますし」
「・・・そうだろうな」
非常に暗い顔をした桐谷が薄く笑う。
名前は知ってるよな、と問われたので頷けば彼は口を開いた。
「首藤響弥ってのは俺の友達だ。ま、人を殴ったりするような奴じゃねぇのは当然だな。気性は荒い所もあったが・・・」
「お友達なんですか?」
「まぁな。だからって庇うわけでもねぇが・・・ま、聞けよ。3件起きた事件は全て、奴が殴り掛かったわけじゃなく向こうから仕掛けて来た」
「・・・えぇっと?」
はぁ、と溜息を吐かれる。それはまさに物分かりの悪い後輩を咎めるような調子だったが、集めた情報を分解して噛み砕くのは基本的に有真や裟楠、或いは六花の役目なので仕方が無い。
「首藤は見ず知らずの人間に、何故か3回も殴り掛かられたって事だ。分かったか?」
「恨まれてたんですねぇ」
「かといって授業中にいきなり殴り掛かって来るか、普通。しかも3人とも互いが互いに面識が無い上、首藤ともまるで関わりのない人間だった。共通点は精々同じ高校、学年の男子生徒ってことぐらいだろう」
「あれ?でも、だったら流れている噂の大半は間違いって事になりませんか?だって、何だか全面的に首藤さんが悪いみたいな――」
そこで心底呆れたように、というか疲れたように溜息を吐く桐谷。今度は自分に向けられた感情ではなく、恐らくこの場に居ない――首藤響弥へ。
「適当に負けときゃいいものを、あいつが馬鹿正直に勝つのが悪い。喧嘩ってのは勝った方が必ずしも良いとは限らねぇのに。そして、1年の階と2年の階で流れてる噂は違う」
「え・・・?」
「事情を知ってる側から見りゃ、ただの七不思議と同列の扱いって事だ」
同じ教室で授業してれば分かるよ。そう言った桐谷は自嘲気味に微笑み、そして実に似合わない言葉を口にした。
「とりあえず、オカルトに強い奴とか知らないか?」
「えぇ・・・?」
七不思議と同列、というのは名前の通りそういう意味だったらしい。完全にオカルト扱いされる高校生男子の喧嘩――余計に興味が湧いてきた。
何人か顔が浮かんでは消えていく。苦笑した桐谷の顔を見ているとどうにか協力してやりたい所だが。
思考の海に深く沈んでいく感覚。最近忘れがちだった人の顔、名前――
「おーい、倉田?何やってんだおめぇ!」
瞬間、元気溌剌、という言葉がぴったりの元気な声によって思考は強制中断された。