09.

 ――昼休み。
 幸野巴は六花に断りを入れると教室から飛び出した。もちろん弁当を食べ終わった後である。
 というのも校内の情報通である巴はどうしても例の事件が忘れられず、単独で調査することにしたのだ。とは言っても六花が興味を示さないのは元から分かっていた事だが。
 しかし実際の所、情報収集は巴の天職とも呼べる役割なのだ。確かに有真も顔が広いだろうが、それでも巴の幸運体質を前にすればそんなものは裸足で逃げ出す程度のステータスしか有していない。顔が広いのは職業柄、彼女だって同じである。
 廊下へ出て、適当に歩く。
 情報源がどこにあるのかなど知らない。収集する前にやって来てくれるのだから当然だ。

「おい、幸野」
「あ、倉田先輩!」

 声を掛けて来たのは強面の男子生徒――彼の名前は倉田桐谷くらた きりや。家庭科研究部の部長、つまりは巴の先輩にあたる人物である。
 そんな彼は先輩であると同時、大事な情報収集源でもある。
 案の定、すでに暴力事件についての情報を持って来たらしく――

「部活。今日は休みだが、明日は部会するぞ」
「えぇ!?部会?どうしていきなり・・・何かあったんですか?」
「いや、特に何かあったわけじゃないが、顧問がいきなり全員集めろって煩いからな。仕方が無いだろう」

 桐谷の口から飛び出した話題は部活の事だった。本来は週3部活の家研部。今週はすでに予定が組まれており、今日と明日は休みのはずだったのだ。
 その顧問というのも曲者で、彼はほとんど部活に顔を見せないくせに、何故かいきなり部員を召集したりとまるで行動が読めない。一ヶ月前も唐突にケーキが食べたいとか言い出して山菜料理の計画がお流れになった。

「忘れるなよ。何回も集まりたくねぇからな。ったく・・・あと、ケータイ見ろ、ケータイ」
「え?あぁ・・・そういえば家に・・・」
「ケータイを携帯せずに何が携帯電話だ・・・」

 もっともな事を述べた桐谷は呆れた顔をすると不意にその顔を曇らせた。言いにくそうに顔をしかめ、やがて唐突に話題が変わる。

「あー・・・あと、お前、また情報でも集めてんだろ。例の」

 ――どうやら待ち望んでいた話題に。