07.

 翌朝、いつも通り早くに登校完了した六花はぐったりと机に突っ伏していた。もちろん、ルシフェルが昨日カミングアウトした友人2名の人外疑惑もそうだが、実際問題、朝からの彼の行動に逐一酷い目に遭わされただけだ。
 まずやらかしてくれたのが、あの堕天使は実体が在ることをすっかり忘れ、ドアに突撃。常にすり抜けるという実に人外じみた行動を取ってくれていたのだがそれも昨日の出掛ける前までの話だ。気持ちよく惰眠を貪っていたというのにドアが破壊される音で目を醒ますとは。今日一日、良い事があるとは到底思えない、最悪の目覚めと言えよう。
 それだけでは飽きたらず、力の加減を誤ってリモコンのボタンを破壊。テレビの電源が点けられなくなった。どうしてくれるんだ。
 更に家を出る直前。唐突に腹が減ったなどと言い出す始末。実体があるのだから当然の、つまりは生理現象なのだがもっと早く言えよ。柄にもなく遅刻するんじゃないかと朝から焦った。

「あー・・・」

 諸々の事を思い出すと、一日保つ気がまるでしない。家に帰ればルシフェルがやらかしてくれた事の後処理。学校にいてもクーラーあまり涼しくないし汗を掻くだけ。
 ぐったりと再び目を閉じる。
 しかし、そこでタイミングを見計らったかのように声を掛けられた。

「朝から随分疲れているな、どうした?」
「・・・有真」

 快活な声に顔を上げればいつもの輝く笑顔を浮かべた司荻有真が立っていた。昨日の今日で気まずいが、彼等はルシフェルとの会話を知らないので通常通りである。
 ――が。

「あれ?裟楠は何をしてるの?」
「うん?あぁ、アレか!彼女とメール中だぞ。話し掛けると怒られるからな!」
「そりゃそうでしょ・・・珍しいね、朝から雪路ちゃんと」

 裟楠のカノジョさん――雪路ちゃん。一度会った事があるものの、それ以降はほとんど顔合わせもしていない。極稀にメールが届くものの、彼女は受験生なのであまり長くやり取りが続く事は無かった。
 特に悪い印象がある子でもないが、何と言っても朝から熱心に携帯電話の画面を見つめる裟楠には少々恐ろしいモノを感じる。
 ところで、という有真の言葉に視線を戻す。
 少し困ったように笑った彼はゆっくりと尋ねた。

「昨日――」
「グッ、モーニンッ!!」

 その問い掛けは、勢いよく教室へ入ってきた幸野巴に遮られた。