06.

「で?何?何でいきなり人間デビュー?ってか人間デビューって何!?」

 ――あんたはどうしたって堕天使だろうがよぉぉぉ!!
 心中で絶叫する。しかし、そんな六花の心中を汲むこと無く相変わらずの不敵で傲慢な笑みを浮かべたルシフェルはまるで何の躊躇も無く言ってのけた。

「人間にはなれないからな。ようは、人間にも《視える》ようになったわけだ」
「・・・いや何で?何企んでんの、ねぇ?」

 まったく意味が分からない。どうして他者に視えるようになりたいのか。むしろ「実体あるのも面倒だろう?俺は絶対に要らないな、肉体とか何とか」って言っていたじゃないか。
 例えば対峙しているのが天使長たるミカエルであったのならば。
 彼は――天使は嘘を吐けないらしいので、全ての発言は信用に値する。が、残念ながらルシフェルの言葉はいちいち吟味し、自分で考え、そして厳選しなければならない。

「ははは!ま、俺もこれはやり過ぎかと思ったんだがね。あの管理人が言っていた通り、この街にいる人間は《視える》奴が多いようだ。それに、お前自身がそう言った存在を惹き付ける」
「えぇ・・・?」
「以前は俺が居るから大丈夫だったが、この街ではそうもいかないんじゃないかな。何せ、両隣に住んでいるのは人外。お前は、今やナチュラルに高位人外と接触していまう、針山みたいな場所に住んでいるわけだ」
「いやごめん、ちょーっと私には意味がよく・・・え?いや待って。それ、《視える》ようになっただけで実体は無いてこと?」

 はあ、とあからさまに溜息を吐かれた。際限なくイラッ、としたがそこは抑え、言葉の続きを待つ。

「実体はある。そうじゃなかったらわざわざインターホンなんて押さないだろう?まったく、お前は・・・」
「ウザいッ!あぁもう!もっとこう、棘のない話し方出来ないの!?」
「すぐ怒鳴るんじゃない。とにかく、俺とお前は目に見える形として《同居人》と名乗る事にする。いいな?」
「よくねぇぇぇ!!女子高生が明らかに怪しい男と同居って!犯罪臭しかしねぇよぉぉぉ!!」

 そういうものか、と首を傾げる堕天使の頭にティッシュの箱を投げつける。それをひょい、と避けた彼は愉快そうに嗤った。

「短気は身を滅ぼすぞ、六花。それで?他に訊きたい事は無いのか?」
「・・・髪は?何で切ったのさ」
「おや、長い方が良かったか?だが、日本の男はみんな短いじゃないか。こう、長髪だと目立つんだよ」
「成る程ね」

 それについては賛成である。今度から一緒に出掛ける度、彼も人目に触れることになるのだから目立たないようにするのは当然だ。
 話は終わったので、やるせない思いを込めて溜息を吐き、視線をテレビに戻す。すでに大分時間が経っていたので番組は一体どこまで進んだのか皆目見当も付かない。しかし、次に背中へ投げつけられたルシフェルの言葉により、六花はテレビどころではなくなる。

「あぁ。言い忘れていたが、お前が今日呼んだ友達。男二人組だったか?あいつ等、半分ぐらい人外だぞ」