05.

 テレビを見て爆笑していた橘六花は玄関のインターホンが鳴り響いた事で我に返った。時計を見ればすでに午後8時。こんな時間に誰だろうか、と一応独り暮らしという事になっている六花は玄関を見やった。
 生憎と、どこをほっつき歩いているのかルシフェルはまだ帰っていない。といっても彼の心配をするなんて事は無いのだが。心配しているのは自分の身である。

「えぇ・・・どうしよう、居留守使うか・・・?」

 呟き、テレビの音量を下げ、相手の出方を伺う。事実、電気は点いているので中に人が居ることは分かっているのだろうが。
 少々の期待を以て待っていたのだが、もう一度インターホンが鳴ったので無駄だと首を振った。仕方なく立ち上がる。いきなりドアを開けるのは危険なので、外にどんな人物が居るのかチェックしようと思ったのだ。
 そっと覗き穴に右目を当てる――

「おい、居留守使うんじゃない。開けろ」
「あっ!?ルシフェルじゃん!」

 よく見えなかったが、聞こえた声はルシフェルだった。ので、何の躊躇いも無くドアを開ける。それこそ危険な行為だったが、やはり外に立っていたのは堕天使その人だったので問題は無さそうだ。
 ――が。

「えぇぇえぇぇぇ!?るっ、ルシフェ・・・髪が・・・無い・・・ッ!?」
「うん?あぁ・・・切った」
「何故!?っていうか、脅かさないでよ!すり抜けて入って来ればよかったじゃん?」
「実は俺、人間デビューしたんだよ」
「えぇ!?」

 ぎょっとして玄関に佇む男を見やる。長くて艶やかな長髪は短く切られてしまい、見る影もない。それでも《ルシフェル》としての美しさは損なっていないようだが、長髪を見慣れた身としては、違和感のある光景だった。
 とりあえず『人間デビュー』などと訳の分からない事を言ってのけた彼を室内へ入れ、事の経緯を訊く事にする。

「何があったの一体・・・」
「うん?何か言ったか、六花?」
「・・・・」

 もう一度、リニューアルなルシフェルを見やる。不貞不貞しい態度も、傲慢な発言も、ほとんど何も改善されていないが、本当にやりにくいな、と一つ溜息を吐いた。