01.

「おっ邪魔しまーすッ!」

 元気の良い声と共に巴、続いて有真と裟楠が玄関へ入る。今日は日曜日なので全員が私服姿だが、私服が人間を現すというのは本当らしい。
 土曜日、ルシフェルの部屋を後で元に戻すという条件の下改造、そして今に至るのだが引き攣った笑顔はちゃんと取り繕えているのだろうか、と些か心配である。そして件の堕天使はというと、人間が3人も増えたら狭いとか訳の分からない事を言って早々に出掛けた。それだけは僥倖だったと言えよう。
 ちなみに彼が出掛ける時、残した捨て台詞は「お前にも友達とか居たんだな」だった。殴りたくなった。

「って、どうしたの?そのジュースと大量のお菓子ッ!?」
「え?あぁ・・・また巴がやらかしてな・・・全部食べるのは無理か」

 有真が大きなビニール袋二袋分のお菓子を、裟楠がこれまたビニール袋二袋分のジュースを。とても4人を賄う為の量ではない。これは、マラソン大会差し入れ並の量だ。もっと言うのならば、こんな大量に飲み物食べ物は要らない。
 えへ、と元凶たる巴が笑う。誤魔化そうとしているのが手に取るように分かるが、それで騙される程薄い浅い付き合いではない。
 ――が、彼女に非がないのもまた、確かなのだ。

「何で巴に自販機触らせたの!?」
「150円で上手い具合に4本ジュースを当ててやる、と言ったのはこいつだ。が、見て分かる通り出て来すぎたが」

 裟楠が肩を竦める。重そうな袋を物ともしない挙動だ。ははははっ、と無駄に明るい嗤い声を上げ、有真が便乗する。

「自販機から金も入れていないのに出て来る大量のジュースは壮観だったなぁ!」
「笑い事じゃないですよぅ!どうするんですか、これ!全員で分けて持って帰らせますからね!」
「何?俺と有真は寮生だ。自由に冷蔵庫が使えるわけではない」
「いや、寮事情とかいいからさぁぁぁ!!こんな缶、うちにだっておけないからッ!!」

 いや、それよりもお菓子の方は何が起きた?まさかお菓子を売っている自販機など無いだろうし――

「お菓子はですねぇ、スーパーで引いたくじ引きの一等がそれでした」
「一等お菓子かよ!要らねぇ!」
「ま、これについては本当に私の実力ですから」
「何清々しい顔で言ってんの!?心配しなくても自販機だって巴の実力だよ!」

 150円入れて何十本もジュースを出すのが才能でなく何と言うのだろう。もちろん、それら全ては幸野巴という一個人の、大きすぎる幸運によるものだが。

「おい、いいから中へ入れろ。暑い」
「あ、ごめんごめん。めんごめん、っと――ってか、裟楠は来ないって言ってなかった?」
「誰がそんな事を言った」

 ――アンタだよ!
 言い掛けて止めた。不毛な争いは極力避けたいものだ。
 ルシフェルの部屋を何の違和感もなく通り過ぎ、とりあえずはリビングへと通す。リビングなどという言い方をしたが、ようは居間だ。
 入って来た友人3名が物珍しげに人様の部屋をジロジロと不躾に眺める。

「それにしても、六花の家のわりには片付いているな!」
「わりには、って何?まあ・・・片付けに関してはちょっと口うるさい人がいるからね」

 人、というか堕ちちゃった天使的な何かだが。
 視線を不自然な方向へ泳がせながら呟く。が、それを耳聡く聞きつけたのは言うまでも無く巴だった。

「え?誰が他に来る人とかいるんですか!?」
「嬉しそうな顔するなッ!人は来ないよ!!」
「えぇ?でも、煩い人がいるって・・・」
「いるけど――いない、みたいな?」

 むう、と呻った巴は実に納得のいかない、という顔でこちらを見ているが敢えてそれをスルーし、一本目のジュースを開けた。それにならい、有真がお菓子の袋を開ける。
 所詮、高校生が集まれば菓子食って喋るだけである。