次、左隣。右の住人が無愛想極まりない異形だったので、今度こそまともな《人間》が出て来る事を願う。出来れば女性がいい。
独り暮らしとは限らないのだがそう当たりを付け、インターホンを押す。最初から濃い人物だったので今更躊躇いとか無かった。馬鹿馬鹿しくなった、と言うべきだろうか。後ろに立っているルシフェルも最初からいきなり人外を引き当てたせいでご機嫌斜めだし。
「あ、こんにちは」
ややあって出て来たのは女性だった。軽くウェイブの掛かった長い金髪にエメラルドグリーンの涼しげな瞳。ふわりと風に揺れるロングスカート。年の頃で言えば20代前半か入ったばかりぐらいだろうか。
――外見だけは限りなく人間らしい。
が、さっきもそう思って声を掛けたら異形だったので今回も油断できないだろう。
すると女性が微かに笑った。
「どうかしたの?」
「あっ・・・いやその、隣に、越して来た者ですが・・・あの、これ・・・」
「あぁ、ありがとう。そういえば戌亥さんが言ってたな。よろしくね、六花ちゃん」
「えっ・・・あ、はい」
――フラグぅぅぅ!!何でこの人私の名前知ってんだよ!?
心臓をバクバクいわせながら、女性に向かって微笑み返す。信じたくないが、彼女もまた人外の可能性が高くなってきた。
「
「はぁ・・・。橘六花です」
「うん。それで――後ろの人は?」
――視えてるッ!あぁぁぁああぁ、どんどんフラグを建設してるよこの人・・・!
明らかにルシフェルを指すその先。相変わらず何を考えているのか分からない、明けの明星の姿があった。
肩を竦めた堕天使は物怖じすることなく、むしろ楽しそうに自らの名を名乗った。
「ルシフェルだ、よろしくお嬢さん」
「うわっ、気障っていうか気持ち悪いッ!」
「何?お前に自殺志願があったとはな。後で面貸せこら」
へぇそうなんだ、と一人感心しているのは言うまでも無く隣人、アイリス。好奇の目でルシフェルを視、そしてもう一つ頷く。
「ルシファー・・・傲慢を司る悪魔だね」
「・・・出来ればルシフェルと呼んで欲しいものなんだがね」
「あ、よろしくお願いします、ルシファーさん」
聞いちゃいない。まあ、ちらりと傲慢な《悪魔》の方を見やれば彼は完全に浮かべた笑みを引き攣らせていた。アイリスにはどう見ても悪気が無いのでその分質が悪い。
何やかんやで今日のミッションは終了。
右隣はまるで宛にならないが、左隣は実に友好的だ。こういう異形の方が危険なのかもしれないが、生憎と頼れる者は頼る、使える物は使う主義の六花は一度失敗するまで左隣に頼る事を辞めないだろう。