03.

『・・・非常に言いにくいが、俺の正体が向こうにばれているらしい。何者かまでは特定出来ていないようだが、《異形》であることは確実にな』
『えぇー・・・どうするよ、それ』

 九官鳥と目が合う。本人曰く、「別に九官鳥に化けたつもりはない」らしいがそのサイズにその色だと九官鳥にしか見えない。対峙する相手が鳥博士でもない限り、彼が九官鳥にしか見えない事は確かだ。
 しかし、ここに来て彼は言った。

「これ以上の隠し事は無意味だな。どうだ、六花。俺がもっと円滑に話が進むよう、取り計らおうじゃないか」
「え、ちょっ、まっ・・・!」

 最早脳内会議ではなく、ほとんど口に出して制止の言葉を投げ掛けようとした刹那。カッ、と目に悪い眩しすぎる光がマンション1階のロビーを覆った。次に目を開けた時、開いた鳥籠と人型に戻ったルシフェル、そしてそれを相変わらずのにこやかな表情で見つめる戌亥の姿があった。
 ふふ、と戌亥が整った顔で人形のように綺麗な笑みを浮かべる。

「やぁ。やっとお目見えって奴だね。君も《異形》――妖怪の類ではなさそうだ」
「ふん、妖怪?生憎だが、俺は日本産じゃないんでね」
「どうしようかな。基本的に僕は外国の連中が好きじゃないんだ。悪く思わないでくれよ」
「頭の硬い奴だ。視野は広く、だろう?これだから引き籠もりは」
「引き籠もっていないだけでニート同然の生活を送っていそうな君には言われたくないよ。外には出ないが、僕は働いているからね」

 ――そういう話はルシフェルってかなり不利だから早く話題変えた方がいいんじゃない?
 思ったが口は挟まない。以前、うっかり横槍を入れて堕天使にまで殴られかけたのは良い思い出だ。というか《外》の範囲が国外。さすが《異形》。話のスケールがまるで違う。

「さて、遅くなって悪かったね。とりあえず、君が所望する部屋へ案内しようじゃないか」
「あぁはい、お願いします」
「こら六花、そいつにあまり近寄るな」
「何言ってるの堕天使。危険度大して変わらねーよ」

 どちらも同じぐらい危険である。
 ――というか、これから住むかもしれないマンションの管理人と早くも険悪なムード。どうしてくれるんだこの堕天使。これだったら大人しく九官鳥の真似事でもしていてくれた方が良かったよ。
 あぁそうだ、と戌亥が振り返る。

「先に言っておくけど、この街には《視える》奴多いよ。かく言う僕も早々に姿を隠すなんて止めたぐらいだからね」
「・・・・」
「2階の真ん中――ここだよ、はい、鍵」

 無言で二人が睨み合っている間に部屋へ辿り着く。7階とかだったらちょっと玄関から遠いので考え物なのだが、如何せん2階。この物件はどこまでも六花に良心的だ。

「きっと気に入ると思うよ、ねえ?」

 意味深に微笑む戌亥の顔が脳裏に焼き付いて離れない。