高校1年生、所謂女子高生である
例えば向こう側が透けた人型の何か。
例えば他者には視えない、自分に話しかけて来る黒い何か。
それが異常である事に気付いたのは小学校時代、夏休みに放送されていたホラー番組を見た瞬間からだった。幸いにして、周りの人間に「あ、あんな所に黒い影が・・・っ!」やら「さっき居間に人いたけどお客さん?」やらと不審な発言をしなかった彼女は、こういった展開の王道である《みんなに避けられるルート》を見事回避したのだ。
だからといって、彼女の過去は決してきゃいきゃい子供のように騒いで毎日を遊び倒すなどという《普通》通りにはいかなかった。
一人の時、或いは数人と一緒の時。ふと気付けば人間が一人増えている。
いきなり《そういったもの》が寄って来たかと思えば特に理由の無い暴力。が、向こう側がスケルトンだったので怪我をした事は無かったのだが。
ツチノコを発見した事もある。
何が言いたいかというと、その特異な能力によって得をした事は一度だって無い、ということだ。視える上に惹き付けやすいらしく、視えないフリをしていてもそれらは寄って来るし。
ネックだったのは誰にも相談出来なかった事だろうか。
幼いながらに異常性に気付いていた六花は、他の人間に一言だってそれを話したりしなかった。どれだけ恐くても。
――が、やはり六花は幸運だったのかもしれない。
一人で震える日常はそう続かなかった。
すでに全ての事象において達観の姿勢というか悟りを開いているような状態だった彼女は中学生に上がった頃、《それ》と出会った。
彼はどうやら人外の中でも上位に位置する偉い御方だったようで、彼が六花に纏わり付くようになってから視えはしてもその異形達が彼女に近づいて来ることは無くなった。代わりに意味の分からない男を常に引き連れている状態に陥ったが、先にも述べた通り両親は六花の奇異な能力の事など知らなかったので実に快適だった。
最後の最後、橘六花を手中に収めたその人外。
名前は――
「――ルシフェル。ちょっとちょっと」