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少しだけ早足で歩きながら、ふと伊織がこう呟いた。
「そういえば、最近は宗連さんに会わないけれど、あの人どうしてるんだろう」
「えーっと・・・あの、先輩。そもそも僕等は、宗連さん自体に会わないんでなんとも・・・」
「えっ、そうなの!?」
宗連さん、と言うのは箱庭荘の実質管理人である。彼が管理しているのは箱庭荘、と言うより箱庭荘で働いている霊能者の方だが、彼はあまり人間に興味が無いようなので。
そうなんだ、と少しだけ肩を落とした伊織はしかし、気を取り直したのか或いはこれ以上の情報は望めないと思ったのか、話題を変えた。
「今日のお仕事、何だろうね。まだ明日も学校あるし、あまり肉体労働系じゃないのがいいなあ。ねぇ、式見」
「・・・別に」
「そうだよね。脳筋派はどっちだって良いよね。でも、加佐見くんは私の味方だと思うんだよ」
「え・・・いや、僕は、少しくらい体力付けた方が良いかと思う・・・思います」
本気で驚いたような顔をされた。確かに、自分は体力が少ない。長距離なんて走らされたらすぐ息切れするし、鉄棒の逆上がりは最早出来ない。が、一応、伊織曰く『肉体派』の式見を目標に日々身体を鍛えていたりするのだ。笑われるというか、呆れられるだろうから誰かに教えた事は無いけれど。
不意にジッとこちらを見つめる式見と目が合った。いつもボンヤリしている人がこちらをまんじりと見つめて来ていれば緊張するのは当然の事で、加佐見は顔を強張らせる。悪気は無い、断じて。
「式見はね、加佐見くんの見上げた根性に感服してるだけだけど、あんたに見つめられたら恐いからもう見ないであげた方が良いんじゃない?」
「今の発言のどこに見上げた根性が・・・」
「知らないよ、式見はほら、あまり喋らないからね。双子だからって完全に思考をトレース出来るわけじゃないし、相応のプライベートってやつもあるから」
式見の為の完璧な通訳、及び翻訳機はそう言うとやっと到着した箱庭荘の物々しい木製の門を潜った。今思えば最初の頃は、この大層な造りの門を潜るのでさえ抵抗があったものだ。今は足を引っ掛けないように注意する事以外、門について思う所は無いが。