08.

 あまり比べるものではないけれど。
 それは――そう、まさに口ほどにも無い、という言葉が当て嵌まる光景だった。例えば以前、ヴィンディレス姉妹を相手取った時より随分楽だし、何より自分達を相手にその人数で挑もうと言うのがすでに楽観的なのだ、と真白は気付いていた。
 ――どうして、この人は向かって来たのだろう。
 倒れた数名の仲間と、いまだ奮戦しているヴァッシュを見て純粋にそう思った。力の差は歴然としているし何よりどう考えたって杜撰だ。挑むにしてももっと時間を掛けて準備すべきじゃないのか。

「真白、もういい」
「・・・うん」

 仲間の二人を落下してきたシャンデリアに潰されたヴァッシュもすでに満身創痍。これ以上、真白による城の破壊活動をさせるわけにはいかなかったらしいディラスの制止の声。
 ――確かに、リーダー格であったヴァッシュは他の二人より強かったのかもしれないが、それでも多少強い人間の域を出なかった。《ローレライ》のような化け物じみた力を持たなかったのだ。

「良い人だったのに」

 呟きは意外にも彼に聞こえていたようで、動きを止めているヴァッシュの射貫くような目が向けられた。憎々しい、と叫びたいのを堪えているような目。

「・・・あの時、あの屋敷で・・・お前にさえ出会わなければ。俺だってこんな無謀はしなかったし、こんな馬鹿げた事態にもならなかった!《災厄》め!あの場にいた人間を皆殺しにするつもりか」
「よく・・・言っている意味が分からないのだけど」
「白々しい事を――」

 と、なおも何か言わんとしていたヴァッシュの身体が傾いたと思えばそのまま倒れる。動かなくなった。
 赤い絨毯の上に倒れていたので、血の池地獄みたいなスプラッタな状況にはならなかったものの、一つの疑問を覚えて真白は首を傾げる。

「あれ・・・首が・・・くっついてる」
「いつもいつも、僕が首を刎ねるみたいな言い方をするな。お前に対する僕なりの配慮だ。どうしてそんな事をしようと思ったのかは答えかねるが」

 その後、多額の報酬を片手に、ただし砂埃やら何やらで汚れた出張《音楽団》の団員達を見てアルフレッドが溜息を吐いたのは言うまでも無い。