王が何か喚いているのを尻目に、《ローレライ》とただの人間の視線が交錯する。数の上で見るのならばそれは三人いる宴の方が有利なのだろうが、《ローレライ》を前にそんな小細工が通じない事は誰の目に見ても明らかだった。
ただ一人、真白だけが数上の不利を「大丈夫だろうか?」と首を傾げていたが。
そんな少女の不安を置き去りに、悠々とした態度でディラスがヴァッシュに問う。それはただ純粋に疑問に思ったような問いだった。
「何故、お前達はこの城へ乗り込んで来た?とうとう国王暗殺なぞ馬鹿げた事でも始めたか」
「馬鹿な。ンな事したって何にも変わらねーだろ。王なんて、いくらでもすげ替えりゃいいんだから」
「なら尚更、どうして《賢人の宴》がここにいるのか理解しかねるな」
「よく言うぜ。仲間の仇だ、今ここで死んでくれ。《ジェスター》」
美しくないな、と心底軽蔑し侮蔑したように音楽家は吐き捨てた。その顔にはありありと嫌悪感が浮かび上がっている。
「どの仇だ・・・。言っておくが、僕は宴の連中を相当数殺しているぞ。僕だけではなく、他の連中もそうだろうが」
過去数回に渡り、意見の合わない《道化師の音楽団》と《賢人の宴》はぶつかっている。その度に大量の犠牲者を出すのはただの人間が多い宴側だったが、そうであるが故に音楽団側が気に掛けていなくとも向こうの恨みは根深いものとなっている。
よって、酷い話だがディラスにとっては彼が一体誰の仇を討ちに来ているかなど見当もつかなかったのだ。
しかし、意外な事に口を挟んだのは真白その人だった。
「あの時じゃない?あの、ヴィンディレス邸へ行った時の」
「うん?・・・あぁ、あれか。ということは、今僕達の前にいる、奴はお前が見逃した外回り組という事か?」
「そうだよ」
「そうか・・・二人組だったがどちらも口ほどにも無かったな。どちらかが組織内の重鎮だったんだろう」
「雑だよね、ディラスって」
「今更だ」
疑問が氷解したからか、ディラスが優美にヴァイオリンの弓を手に取る。それは戦闘開始の合図であり、真白にとっては今からが第二幕。
真っ黒い弦が、赤い絨毯の上を縦横に断絶する。
すでに、国王陛下はどこにも見当たらず、代わりに近衛兵達が遠巻きに音楽団と革命軍の戦闘を疎ましげに見ていた。