城の窓を叩き割り侵入して来たとんでもない人物。およそ常識外れと言う他無いが、その数人組は王ではなく、《道化師の音楽団》たるディラスと真白の方に狙いを定めていた。
それにいち早く気付いたディラスが乱暴に音を奏でる。少し荒っぽいものの、まだ音楽の域を出ない、それはそれは素晴らしい音だった。
飛んで来た刃物が一つ残らず叩き落とされる。
その一瞬の攻防を、とくに感情の籠もらない目で見ていた真白は一体誰がこんな大胆な事をやらかすのか、と窓枠が壁ごと破壊されたあとの粉塵が晴れるのを目を凝らして待つ。
「チクショウ・・・」
果たして、現れたのはやはり赤いバングルをはめた男三人組。それが《賢人の宴》を名乗る革命軍である事は事前知識として知っている。
――ので、真白は微かに首を傾げた。
彼等とは初対面のはずだが、真ん中のリーダーらしき男が驚いたようにこちらを凝視しているのに気付いたからだ。
「あの時の・・・嬢ちゃん・・・?」
「んん・・・?」
「真白だろ、お前!」
名前を呼ばれた。ディラスの怪訝そうな視線が突き刺さる。
あ、とそこで真白は合点がいったように手を打つ。
「ヴァッシュだ。ヴィンディレス邸の外で会った人」
「おう・・・嬢ちゃんは、どうしてここに?」
もちろん彼――ヴァッシュはディラスが《ジェスター》である事に気付いているだろう。敵意の篭もった視線から辛うじてそれだけを読み取り、何と答えるべきか、或いは何も応えないでいるべきか逡巡する。
しかし真白の遅い思考はディラスの一言によって遮られた。
「知り合いか?僕には関係の無い事だが・・・僕に協力する気があるのならば、今すぐ歌え」
「・・・うん」
罪悪感はとくに、無い。
真白にとってヴァッシュという人間はちょっと外で出会った通行人と何ら変わらない立ち位置だったのだ。
その一言に全てを察した宴の序列5位は哀しそうに微笑む。
「そうか・・・お前が・・・《歌う災厄》だったんだな。道理であんな危険な場所をうろついてると思ったよ」
「貴方達が気付かなかったのが悪いんじゃない?」
「あぁ・・・あぁ、そうだろうさ。だが、俺がお前に騙されたって思うのも俺の勝手じゃないか?」
呟くように言ったヴァッシュが得物――柄の長い斧のような武器を真白に向ける。それが《ローレライ》に対してどの程度有効なのか真白には測りかねるが、ディラスが馬鹿にしたように鼻を鳴らして言った台詞のおかげでそれがさして脅威でない事を知った。
「そんな玩具で《ローレライ》に勝てると思っているのか?特攻なんて、今時流行らないだろうに。もっとも、特攻というのは相手に有効打を与えられる見込みがあって初めて成立する言葉だが」