04.

「――お言葉ですが、《災厄》の歌を陛下にお聞かせするわけにはいきません。彼女の歌声は災厄を喚び込みますので」

 眉間に微かに皺を寄せディラスが言う。それなりに付き合って来たからこそわかるが、彼のこの表情は相当に不機嫌である証拠だ。
 警戒する音楽家に不安を煽られた災厄。真白の瞳が虚ろに揺れる。

「万が一にも災厄を喚び込んだとして、そうなった場合は私が責任を取ろう。お前が気にする事では無い」
「そのような不当、我々が赦すとでも?」
「被害を受ける側の私がいいと言っているのだ」

 ざわざわと脇に控えている兵士達がざわめく。それは動揺であり、真白と同じく不安だった。何せ、真白はヴィンディレス邸を解体した張本人である。この城がそうならないとは言い切れない。
 きゅっ、とディラスの服の袖口を掴んで彼を見上げる。視線がほんの一瞬だけ合った。それはまたすぐに逸らされるが。

「それに、このような依頼は団長を通していただかないと――」
「それについては確認済みだ。だからこそ、お前達の長は快くお前達を送り出したのだろう」
「・・・・」

 ぴきっ、とディラスの顔が引き攣った。元凶がアルフレッドにあると分かり、気分を害したらしい事は言うまでも無い。
 トドメと言わんばかりに王は言葉を吐き出す。

「多額の報酬を払おう。今ここで、《歌う災厄》の歌声を拝聴出来るのならばな」
「・・・・・・・・分かりました」

 ややあって、ディラスが折れたのかがっくりと項垂れる。まさか味方裏切られるとは思わなかったのだろう。かく言う真白も驚きを隠せない。
 そして承諾してからの音楽家の動きは迅速だった。さっさとヴァイオリンをケースから取り出し、真白を見やる。

「いきなりだが――大丈夫か?駄目ならば、少し時間を置かせてもらうが?」
「大丈夫。だいたいいつもそんな感じだから」
「もっと準備の部分にも頓着しろ。喉を壊すぞ」
「それはマネージャーがやってくれるから、いい。今は貴方がしてくれるでしょ?」
「世話の焼ける奴だな」

 短い会話を終え、ディラスが上座に腰掛ける王へ恭しく一礼する。真白はそれを横目で眺めていただけだった。
 やがて、少し前にも聞いた事のあるような戦慄が鼓膜を静かに打って――