07.

 ディラスが完全にいなくなったのを見届け、真白はようやっとカウンターに気怠そうに佇んでいる調律師、キリトの方へ視線を向けた。彼もまた、こちらを見ている。

「キリト、って・・・そのままじゃない。もっと他に無かったの?」

 ふん、と調律師はまったく笑わないままに鼻を鳴らした。

「挨拶が先だろう。いつぶりだと思っているんだ」
「・・・一ヶ月ぶり、ぐらいかな。私が死ぬ前、貴方とは最後に会っていたはずだから」

 ――相河桐寿。それが、このキリトを名乗る男の本名である。
 生前、前の世界では一時、チームを組んでいたのでよく覚えている。どうしてここにいるのかは知らないが。
 そんな彼は目を眇め、やや首を傾げた。

「妙だな・・・俺は、1年ぶりぐらいの再会なんだが」
「えぇ?というか、そしたら色々おかしいよ。私が生きていた時、きりひ――いや、キリトも生きていたじゃない」
「あぁそうだな。俺は、お前の葬式に参加した記憶がある」
「え、葬式?誰が開いてくれたのそんなの」
「知らん。マネージャーが号泣していたぞ。私は今日から誰の担当をすればいいんだ、ってな」

 そう、と一つ頷いた真白は話を変える。この話題については未知の部分が多すぎて、どうしようもないしそんなご都合主義じみた話をしている間にディラスが帰って来たら何の為にこうして時間を取っているのか分からなくなる。

「何で貴方は調律師なんてやってるの?」
「出来る職がこれぐらいしか見当たらなかったからだ。幸い、俺には楽器の知識があったからな。というか、その言葉はそっくりそのままお前に返したい。何故、《道化師の音楽団》にいる?」
「成り行き」
「・・・簡潔だな。もっと他に言う事は無いのか?」
「音楽的パートナーと出会ったからよ。私は、歌えればそれでいいからね」

 そういう概念は確かにディラスとそっくりだ、そう吐き捨てたキリトは肩を竦める。

「例のチームのメンバーは全員、こちらへ来ている。もはや運命だよな。王都に現れた順でしかないが、今の所お前が最後だ、真白」

 それはどういう事だ、と訊こうとしたがそれよりも早く、キリトが首を振った。

「ディラスの奴が帰ってくる。どうなるか分からないから、あまり今の話はするなよ。場合によってはお前の首が飛ぶぞ」
「言わないよ。説明するの面倒だもの」
「・・・ふん、相変わらずだな」

 そんな憎まれ口を最後に、2人は沈黙し店の中には不自然な沈黙が満ちた。