05.

 一通り観光が終わり、ようやく当初の目的だった調律師の元へ。
 調律師がヴァイオリンなどの楽器を調律し、音を整える職だという事前知識はあるが、真白にとってみればそれはほとんど未知の領域と言って過言ではない。何故なら、今まで生きてきてそういう人物に会った事が無いからだ。
 ――よって、王都の観光と同様に、真白から見れば『初めての出来事』と同じ括りである。

「ここだ」
「・・・どこ?」

 不意にディラスが足を止める。ここだ、と言われたがそれらしい建物はない。
 ――否、建物自体はたくさんあるのだが、どうも自分が考える『調律師』というイメージの店は無かったのだ。
 それに気付いたのかそうでないのか、すっとディラスが小さな店を一つ指さす。

「想像していた店より・・・小さい・・・」
「お前は調律師を何だと思っているんだ。作業スペースさえあれば、店の広さは要らないだろう」
「そうなの?まぁ、いいけど・・・」

 店の中へ入る。
 カウンターしかなかった。

「ねぇ、本当にこの店、大丈夫?何も無いけど」
「それについては僕もコメントを控える。何故なら、大丈夫かどうかなど判断がつかないからだ」

 ――丸投げである。というか、質問が少々厳し過ぎたかもしれない。
 それより、店に誰もいないというのは如何なものか。盗られるような物も無いから結果オーライとでも言うべきなのか。
 店ってなんぞや、と真剣に考えていればカウンターの前に立ったディラスが店の奥へ声を掛けているところだった。やはり、店に人がいないのはよくない。とんだ手間である。
 ややあって、店の奥から男が出て来た。

「・・・あ」

 出て来た男と目が合う。彼も少し驚いたような顔をした。
 背が高く、黒い短髪に同じ色の瞳。一瞬、驚いたような顔をしたがその顔はすぐに仏頂面へ変わる。眉間に皺を寄せ、酷く不機嫌そうだ。