まずは昼ご飯でも食べようという話になり、手近にあった喫茶店へ入る。ディラスはサンドイッチを、真白はシフォンケーキを頼んだ。
端から見れば兄妹とも、友人とも恋人だとも見える彼女等は黙々と運ばれて来た食べ物を食べる。そこに会話など皆無だった。いつもの事とはいえ、あまりの静かさにウェイトレスが戸惑っていた。
――と、不意に真白は口を開いた。
「王都は華やかだね」
「そうだな。というか、それ以外表現のしようが無いだろう?」
「うん。喧騒、じゃないんだよね。もっとこう、賑やかっていうか」
「僕も初めて来た時にはそう思った」
「何があるの、ここ」
何が、か。と呟いてディラスが手を止める。相変わらず何を考えているのかよく分からない顔だった。
「何でもある。王城だってあるし、この通り、この場所で買えない物は無い。この通り、食事も美味しい」
「――私が住んでいた所にも、こんな黄金都市みたいな所があったけれど、何かそれとは違うんだよね」
車通りが無いからだとか、電子機器が無いからだとかそんな単純なものではない。
一体、何が、どう、違うというのか――
「あぁ・・・そうだ」
思考を遮るように、何か思い出したらしいディラスが再び食事の手を止める。少しだけ真剣な雰囲気だったので、釣られて真白も手を止めた。
険しい顔をした彼は言う。
「人攫いが流行っているようだ。はぐれたら二度と再会出来ないぞ」
「それ、もっと早く行ってよ」
「アルフレッドが言っていたが――すっかり忘れていた。あいつは言う事なすこと回りくど過ぎる」
人攫いが流行るとかどういう事だ、そう思ったが口にはしないでおく。横行しているという事なのだろう。
「それはいいのだけれど、私、城を近くで見てみたい」
「城?面白いのか、そんなものを見て」
「面白いかどうかは知らないけれど、物珍しいから」
分かった、そう頷いたディラスと真白の会話は今度こそ消滅した。テーブルにはフォークを置く音や、コーヒーを飲む音のみが響く。