03.

 王都というのは華やかだ。と、アルフレッドは言ったがその華やかさと喧騒は真白の予想を遥かに超えていた。
 例えば真白が生前、拠点としていた東京都。人の靴音とビルの大画面に映し出されるCMの音、電車やバスが止まる時のブレーキ音。その他諸々で賑わっていた。
 ――しかし、この王都なる場所はどうだろう。車なんて無い、というか車道が無い分、人が歩くスペースが広い。その広くなった道全てが人で溢れかえり、漏れ出しているような印象。
 大声を上げながら前を通り過ぎて行く煌びやかな服を着た数名の男性。けらけらと笑う高校生ぐらいの少女達。何やらスーツを着た中年の男達の集まり。或いは店の売り子達が張り上げる声。
 人、を感じる場所。それが王都だった。今まで小さな街や館にいたことしかない彼女にとっては全てが異質で初めてだ。

「じゃあ、俺は行くぜ。夜には宿へ帰って来いよ、お前等」
「あぁ。分かった」

 じゃあな、と一度だけ手をひらりと振り、アルフレッドが喧騒の中へ紛れ込みそうして見えなくなる。そういえば彼は別の用件があると言っていた。
 一方で残ったディラス。今からどうするのか、という意を込めて彼を見上げればばっちり目が合った。

「行きたい所はあるか?」
「私は・・・ここに一体何があるのか・・・」
「それもそうだな。どうせまだ時間はある。どこか見て回るか?」
「珍しいね、そういう事言うの」

 そうかもしれないな、と薄く笑んだディラスが空を仰ぐ。

「だが、たまにはそういうのも良いだろう。それに、アルの奴から金を貰っている。貰った分だけならば好きに使っていいそうだ」
「ふぅん・・・じゃあ、観光しよう。別に欲しい物なんて無いだろうけれど、見れば物欲とか出て来るかもしれないし」
「物欲、か。僕達にそれほど似合わない単語も無いな。ふん。行くぞ。人混みだからな、はぐれないようにしろ。僕は人捜しが苦手だ」
「私だってそうだよ」

 はぐれないように、と言ったディラスはその宣言通り忠告だけして後はまったく真白を顧みることなく、ずんずん突き進む。それについていく彼女もまた、小柄な体躯に似合わず人混みを押しのけ、迷いのない足取りで音楽家の後を着いて行った。