02.

 翌日、何となく複雑な気分で真白は馬車に乗っていた。この乗り物に乗るのは誘拐事件に巻き込まれた時以来であり、ある種トラウマを植え付けられている。しかし、この世界では一番安全且つ早く、更に言えば高貴な乗り物らしい。
 ともあれ、馬車内にいる面々――真白にディラス、そしてアルフレッドが揃えば話す事など何も無く、人間が3人乗っているというのに奇妙な沈黙が場を支配していた。
 そんな中、口火を切った勇者は言うまでも無くアルフレッドである。

「真白、お前、調律師って何か知ってるか?」
「楽器を調律する人」
「いや、そうだけど・・・」

 何か言いたげに渋い顔をした彼は観念したように首を横へ振った。

「話が続かねぇから、そこは嘘でも知らないって言えよ」
「ごめんなさい」
「謝る気ねぇなら謝るな・・・」
「うるさいな」
「なんで俺の扱いこんなんなんだ」

 暴言を吐いたところで窘めるようにディラスの手が肩に触れた。どちらを咎めるでもないやり方である。

「・・・まぁ、とりあえず俺の話を聞け。王都に着いたら俺は俺の用事を済ませに行くが、どうせお前はディラスに着いていくんだろ?」
「えぇ・・・それでいい、ディラス?」
「あぁ。僕は自分の楽器を取りに行くだけだからな」

 ふむ、とアルフレッドが一つ満足そうに頷く。

「いいか、真白。まずな、知らない奴には絶対着いて行くな。王都は華やかだが、安全性は低いぞ。一人で行動するなよ。必ずディラスを連れて歩け。奴は甲斐性こそ無いが、お前を一人放置する程アホじゃない」
「アルフレッド・・・お前は、僕を馬鹿にしすぎだ」
「うるせぇな・・・お前と誰かが一緒に行動するときが、一番俺の胃に負担が掛かるんだよ」

 二人の言い合い――というか、アルフレッドの一方的な文句は真白のいいから早く続けろ、という一言によって打ち切られる。実に殺伐とした空間だった。

「俺達は《道化師の音楽団》だ。王城にとってみれば目の上の瘤だぜ。よって、近衛兵とかにも近づくな。テキトーな理由付けてしょっ引かれるぞ」
「分かったわ。何か武装している人に近づいちゃいけない、って事でしょう?」
「おう。それでいい。いいか、お前等・・・前振りじゃねぇからな。絶対に守れよ」

 はい、と各々返事をする事でその話題は幕を閉じた。