01.

 事態が動いたのはそれから数日後の話だった。
 アルフレッドに呼び出された真白は大広間に集まった面々を見て何故呼び出されたのかを悟る。
 一人は召集者であるアルフレッド=ヴィンディア。何やらにこやかな表情を浮かべている。そんな彼に向かい合うようにして気怠そうに立っているのは《ジョーカー》ことマゼンダ。やや離れた位置でこちらを見ているのが自称、保護者《ジェスター》のディラスだ。

「よし、集まったな。双子は・・・まぁ、居ない方がいいか」

 その方が話も進む事だし、とアルフレッドが微笑む。
 いいから早く話を始めろ、とマゼンダがやや不機嫌そうに言った。何やら立て込んでいたのかもしれない。随分と機嫌が悪そうだった。

「ま、言わなくても分かるだろうが、王都に行くぞ。ディラスと真白は絶対参加。で、お前はどうする?マゼンダ」
「成る程ね。あたしは・・・どうしたものかね」

 ディラスに反論の意は無いらしく、黙ってマゼンダとアルフレッドの会話を傍観。その間に移動した真白は彼の隣に並んだ。

「王都、ねぇ・・・来るかな、マゼンダ」
「来ないだろう」

 何故、そう聞き返そうと思った瞬間、おおよそディラスの予想通りにマゼンダは否と首を横に振った。その目は興味が無さそうに細められている。

「あたしは行かねーぜ。イリヤとイリスの面倒を見るのも大変だし、第一行く理由が無いからね」
「そう言うだろうと思ってたぜ。まぁいいが」
「悪いね。あたしはリンネと屋敷に残ってるよ」

 その会話を聞きながら真白ははた、と首を傾げる。

「ディラスは何か目的があって王都へ行くわけ?」
「調律師に預けている楽器を回収しに行く。僕の楽器なのだから、僕が同行するのは当然だろう。そしてお前は一度も行った事が無いだろうからな。奴の迷惑な計らいだ。行きたくないのならば素直に言った方が良い」
「調律師?・・・ふぅん」

 そう言われたものの、ほとんど話の内容は理解出来なかった。楽器を調律する人、という認識。調律が何なのか分かっていないのがミソだ。
 あまりにも興味を持てない真白の表情に気付いたのか、アルフレッドが肩を竦める。

「王都も悪い所じゃねぇ。というか、お前が行きたくないと言っても俺としては調律師に一度会わせておきたいから着いて来て貰わないと困るんだよ」
「どうして私をその人に会わせたいの?」
「あぁ?あー・・・とくに理由は無いが、《道化師の音楽団》を邪険にせず扱ってくれる数少ない店だから、ってとこか。お前が王都で道に迷ったとしても保護ぐらいはしてくれるだろうよ」
「嫌ね、そういう扱い」

 ――アルフレッドとは会話する度に好感度が下がって行く。彼をこの先好きになる事は無さそうだ。あまりにも苦手な人間のツボをピンポイントで押し込んでいる。
 そんな真白の心中を見透かしたのか、苦笑した屋敷の主は首を振った。

「王都は華やかでいいぜ。一度、行ってみろよ」

 もちろん、断る理由も無かったのでこれだけ話を引き延ばしておきながら、真白は存外とあっさり首を縦に振ったのだが。