04.

 楽譜を見つめていた真白はまだ行った事の無い王都なる場所へ思いを馳せていた。王都と言ったら日本で言う東京都を思い浮かべたが、言葉の響き的にもっと壮大なモノを連想させる。
 東京都在中の歌手だった真白にとって首都なるものはある種特別なものに分類される事だろう。そこが真白の世界であり、日常だったのだから。
 友達が居ないわけじゃなかった。
 嫌いな人間だっていた。
 大好きな友人だっていた。
 意味の分からない安心感を持つ相手だって――いた。
 自分がいなくなった世界で、彼等彼女等は何をしているのだろうか。もともと長生き出来るとは思っていなかったが、あんなイレギュラーな展開で殺されるとは思わなかった。

「感傷、ね」

 声に出して呟いてみる。
 歌が全てだなんて言っておきながら、それ以外にも自分の関心があった事に、少なからず驚愕する。まるで後からツケが来る毒のように。今まで目まぐるしく生きて来たから感じなかった事実。
 それらを振り払うように、自称、保護者から貰った楽譜に視線を落とす。全然集中できていない。由々しき事態だ。
 ――そういえば、結局ディラスはどうするつもりなのだろうか。
 あまり王都へ行く事に賛成には見えなかった。それこどろか、あまり行きたくないようだったが。それより、真白としては恐らく長旅になるであろうそれにアルフレッドが同行する方が問題だ。彼と一日中行動を共にするなど、胃がすり切れる。
 そして関係無いが、調律師とは何なのだろう。
 昔組んでいたバンドなるもののメンバーがよくピアノの調律がどうの、と言っていた気がするが、それと同じ意味だろうか。そもそも、ヴァイオリンに調律って必要なのだろうか。弦の手直しの事を言っているのだろうか。
 楽器など使わない身としては、割と本気で疑問に思える問題だ。が、ディラスにそれについて問うのは憚られる。興味を持ったと勘違いされては面倒だ。

「・・・やっぱり、音出さずに音取りなんて無理よ」

 そう言って、真白は楽譜を置いた。
 歌う事に関しての才能があったとしても、練習出来ないなど冗談じゃない。歌唱力の才能があろうが無かろうが、練習時間が無ければそれを歌として完成させる事など出来る訳がない。