01.

 ヴィンディア邸にて暇を持て余していた真白は、マゼンダ直属の部下たる双子に捕まっていた。四六時中ディラスと行動を共にしている訳ではないので、こうやってよく《道化師の音楽団クラウン・パーティー》のメンバーから絡まれる。
 ――恐らくは、興味本位なんだろうが。

「白ちゃーん。暇ヒマ退屈!何かしてよ!」
「無茶言わないで」

 双子の片割れ、イリスが話し掛け肩に腕を回してくる。鬱陶しいことこの上無いが、いつも通りの無表情で彼女を見返した真白は黙ってその腕を外した。
 大した抵抗もなく手持ち無沙汰になった手をぶらぶらと揺らしながら、片割れがさらに絡んで来る。

「ねぇねぇねぇねぇ。イリヤもヒマでしょっ!」
「ぎゃははは!ンなわけねーじゃん。俺今から寝るんだよ!」
「なら、早くどこかへ行けばいいのに」

 会話している気分になれない。何だかちぐはぐで噛み合わない、ただの言葉の応酬。頭の片隅でいつになったら解放されるのか、と溜息を吐く。
 それを敏感に察知したらしいイリヤがにやにやと怪しげな笑みを浮かべた。

「そーいやさ、お前ちょっと歌ってみろよ」
「・・・何故」
「《ローレライ》としてどんな能力持ってんのか知りてーんだよ」
「あっははははははははは!イイ!それイイ!!」

 唐突な片割れの提案に、もう片方も直ぐさま同意。基本的に意見が違わないのは彼等の誇るべきキョウダイ愛である。もちろん、一人っ子の真白には理解出来ない次元の話だが。
 ――そして、彼等の提案にも乗るわけにはいかない。

「無理。私、館内で許可無く歌っちゃ駄目って事になっているから」
「えぇ!?うっそだろ巫山戯んな」
「ぶーぶー!!そんなの絶対に可笑しいよっ!!」
「・・・聞いた事のある台詞だったね、今の」

 ともあれ、これ以上はどう強請られようと対処出来ないし、何より非常に面倒臭い状況になってきたのでこれっきりだ、という意味を込めて双子に背を向ける。
 「あ」と何かを思い出したような、息ピッタリの双子の声。思わず足を止め、振り返る。

「そーいや忘れてたけどよぉ。ディラスの奴がー」
「そうそう。楽譜?何かあんたの為の」
「それが、そろそろ完成しそうだって言ってたような」
「気がしないことも無いよ!」

 ――楽譜。《ジェスター》ディラスが真白に啓示した最初の目的。利害関係の延長上にあるそれ。
 そうか、完成するのか。そろそろ。
 ぼんやりと頭の隅で考え、どうしたものかと嘆息した。