私が一番幸せだった時。
友人に恵まれ、先生に恵まれ、環境に恵まれ、才能に恵まれていた時。
何にも代え難い、黄金の時代。
私は知っている。
もう二度と戻って来ない非日常。知らず知らずのうちに、自分の手に負えない化け物に囲まれていたという事実。
知らない事こそ、人間の幸福であると悟った。
私が一番不幸せだった時。
手に負えない化け物に取り囲まれ、笑う道化師を側に置き、箱の中で飼われ、虚実で持て囃されていた時。
何にも例えられない、それは拷問。
私は知っている。
知らなければそれで良かったただの日常。知ってしまった挙げ句、自らで放棄した黄金の時代。
知っていて良かったと安堵した。
私は覚えている。
ふわり、と身体が浮かぶ一瞬の息継ぎとその先にある惨劇を。
そして今日も、鏡に写る映る移る、《私》と顔を合わせる。