01.

 私が一番幸せだった時。
 友人に恵まれ、先生に恵まれ、環境に恵まれ、才能に恵まれていた時。
 何にも代え難い、黄金の時代。
 私は知っている。
 もう二度と戻って来ない非日常。知らず知らずのうちに、自分の手に負えない化け物に囲まれていたという事実。
 知らない事こそ、人間の幸福であると悟った。

 私が一番不幸せだった時。
 手に負えない化け物に取り囲まれ、笑う道化師を側に置き、箱の中で飼われ、虚実で持て囃されていた時。
 何にも例えられない、それは拷問。
 私は知っている。
 知らなければそれで良かったただの日常。知ってしまった挙げ句、自らで放棄した黄金の時代。
 知っていて良かったと安堵した。

 私は覚えている。
 ふわり、と身体が浮かぶ一瞬の息継ぎとその先にある惨劇を。

 そして今日も、鏡に写る映る移る、《私》と顔を合わせる。