館の外。人が歩くにはやや鬱蒼と茂っている木々の間を縫うように、ヴァッシュとブラッドの両名は散策を続けていた。
「ねぇよ」
「あ?何が?」
不意にヴァッシュはそう呟いた。隣を歩いているブラッドが訝しげな顔をする。
というか、中を探索しているクレア達は無事なのだろうか。上手くアークヴェルトの口車に乗せられたが、本当は屋敷内の方が『何か』が見つかる可能性って高いんじゃないだろうか。
「何がねぇ、って何も無いわ」
「知らねーよ。ったく、連絡もねぇし、中へ入るか?いい加減飽きてきたぜ、俺」
「それはお前だけじゃないっつの!」
言うまでも無く早々に飽きてきたヴァッシュは一つ溜息を吐く。嫌だ嫌だと言いつつも性根の腐った、実に悪い笑みを浮かべている相棒の考えている事はまるで分からない。
せめて扱いやすいクレアか、組織内では一番まともと名高いヴェルトと行動したかった。
その視線に気付いたのか、ブラッドが一層笑みを深くする。
「お?不満そうな顔だな」
「不満だよ。お前と一緒なのが心配で堪らねぇわ」
「そりゃこっちも同じだな」
そんな彼の軽口を聞きながら、いい加減本当に館へ乗り込もうか、とわりと本気で考えていた。