06.

 屋敷の中を注意深く進む。双子に見つかるのも厄介だし、それ以外に見つかるのも厄介だ。

「――あ」
「どうした、クレア?」

 不意にクレアは立ち止まった。視界に木製の扉が入ったのだ。あの豪奢な造りは間違い無く、ヴィンディレス姉と《ジェスター》が死闘を演じた場だ。見納めに、一応中を確認しておいた方がいいのではないか。
 漠然とそう思い、少し前で首を傾げているヴェルトに声を掛ける。

「えっと、一目だけ。見て帰らない?たぶん、二度とここには来ないだろうし」
「・・・そう、だな」

 神妙な面持ちで頷いたアークヴェルトが戻って来て扉に手を掛け、開く。
 本当は一刻も早くこの場から逃げ出した方がいいのだろうが、それではヴィンディレス姉妹に悪い気がしてならなかった。

「何も無いね、何度見ても」
「そうだろうな。それで?お前が感傷に浸るのは珍しい」
「そんなこと無いよ。ただ、何となく――」

 本当に気紛れ。ちょっとした罪悪感の体現でしかない。
 恐らく、気付かなければ見過ごしていただろう。

「さぁ、そろそろ行くぞ。本当に時間、が・・・え?」
「ん?どうしたのさ、ヴェルト」

 動揺したような空気を感じ、訝しげな顔をしてクレアは振り返った。

「え、あ・・・嘘・・・」

 吐き出した息が吸えない。心臓が早鐘を打ち、頭がぐらりと揺れる。息が出来ない、息が出来ない、息が出来ない。
 入って来た扉の前。軽くウェイブの掛かった濃紺色の髪に、不思議な上品さが漂うスーツ姿。緩やかに、傲慢に、高慢に。佇むその様はまさに――

「《ジェスター》・・・ッ!」