05.

「いないみたい。飽きたのかな?」

 部屋から出てゆっくりと辺りを見回すが例の双子はどこにもいない。あの手のタイプは九割方飽き性。案外すでに追跡ごっこに興味を失ったのかもしれなかった。
 その事実に胸をなで下ろし、後ろから仁王立ちしてこちらを見ているヴェルトに合図を出す。

「なるほどな。囮や俺達の動揺を誘う作戦でなければいいが・・・」
「心配し過ぎ。子供は何をするか分からないから危険だって前の職場の先輩に言われた事があるけれど、それは突発的に起こるから恐いのであって、張り巡らせた策なんて怖く無いよ。だって、所詮は子供が考える事だからね」
「・・・どうだかな」

 納得のいかないような顔をした相方はしかし、それ以上悪い方向へ物事を考えていても始まらないと思ったのか部屋から一歩外へ出る。

「しかし、あの双子と《ジョーカー》。本当にそれだけの人間で来たと思うか?」
「え?でも、《道化師の音楽団》にとってここはそれ程重要な場所じゃないんだから、人員を割く理由も無いんじゃない?」
「――《ジェスター》は関わりがあるだろうが、《ジョーカー》とこの場はまるで関わりが無いことを忘れたか」
「・・・あ」

 途端、むくむくと顔をもたげる不安、恐怖、畏怖。相手が《ジョーカー》だけ――それでも十分に恐ろしい事実だというのに、安心していた。相手があの音楽中毒者ではないと。安心していたかった。

「――いや、悪い。あまり不安を煽るつもりは無かった。行くぞ、ブラッド達と合流しなければならない」
「・・・うん」

 微妙な空気の中、クレアは小さく頷いた。