04.

 部屋を出た刹那、子供特有の高い嗤い声と軽快な足音が響く。つまり、追って来ている。彼等の能力が何なのかは分からないが《ローレライ》であることはまずもって間違い無いので油断は禁物だ。音という武器は空気を振動させ、思わぬ距離にまでその旋律を響かせる事もある。

「っちょ!速いッて・・・!!」

 瞬間的な速さは男であるヴェルトにも劣らないクレアだったが、それが持久走になれば話は別だった。体力があるわけではない彼女は、ヴェルトに徐々に差を付けられ始めたのだ。
 それを認めた序列7位は速度を落とすわけでもなく、黙って序列2位の腕を掴み、更に速く、走る。無理矢理走らされる形になったクレアには堪ったもんじゃない話である。

「そこの部屋に入るぞっ!」
「・・・・」

 返事をしてもしなくても結果は同じだった。素早くドアを開け、中へ入って施錠。その一連の動きを流れるような滑らかさで行ったヴェルトは、そこでようやく息を吐いた。

「・・・あぁ、私って体力が無いなぁ・・・」
「悪かった。だが、相手が《ローレライ》だったからな。得物狩りを愉しんでいる間に引き離してしまいたかった」

 悪びれた様子も無く淡々と謝ったヴェルトがこちらを向き直る。
 それで、と事も無げにクレアは問うた。

「結局のところ、あの双子は何だったわけ?逃げるにはそれなりの理由があるだろうし、戦闘を避けたかったとしても、もっと利口なやり方があったんじゃないの?」
「あの双子は《ジョーカー》マゼンダの部下だ。迂闊に手を出せば後々大変な事になる。情に厚いらしいぞ」
「《ジョーカー》・・・」

 《クラウン》、《ジェスター》、《ピエロ》そして《ジョーカー》何れも道化師を指す名にすぎないが、彼等彼女等の実力はお墨付きである。
 それを聞けば、あの時反射的に向かって行かなくて良かったと心の底からそう思えた。
 それに、可愛い部下を放置しているはずがない。マゼンダ自身も近くに身を潜めていることだろう。
 ならば、なおのこと早くここから逃げ出さなければ。

「分かったか?休んでいる暇は無いぞ」
「うん、そうだね。早く外の二人も回収しないと――」

 乱れた息を整え、立ち上がる。籠城は決して自分達にとってプラスには働かない。