03.

 しんみりとした空気を終了させ、クレアはアークヴェルトの指示を仰ぐ。考える事を好まない彼女はいちいちこの後の行動を考えるのも面倒で他人頼りだ。

「ふむ。一旦、外の連中と合流しよう。奴等もそろそろ飽きた頃だろうし」
「――あまりこういう事は言いたくないけどさ、絶対に《道化師の音楽団クラウン・パーティー》の連中に会う事なんて無いと思ってたでしょ」
「そうだな。そもそも、争いに発展させるつもりは無かった。まだ、動くべきではないと俺は思っている」

 そう、とそれだけ応えたクレアは身を翻す。合流するならば早い方がいいだろうし、《音楽団》と出会う可能性が低いからと言って、必ず絶対に出会わないわけではない。事態がややこしくなる前にさっさとこの場から立ち退くのが一番だろう――

「・・・え?」

 そう思って入って来たドアを見たクレアは足を止めた。ちらりとヴェルトの方を見れば彼も困惑した顔で入り口を見つめている。

「あれ?あれあれあれ?ちょっと待ってよ、これって」
「俺等、運が良いな!」
「仕事が増えただけだっつーの!あっははははははははは!!」
「そうとも言うけどな。ははは」

 それは二人組――否、双子だった。
 片方は少女。金色の長髪を無造作に垂らした蒼い眼。何が可笑しいのか愉快そうに歪んだ唇と双眸。右胸の辺りに輝く逆さ音符のブローチ。
 片方は少年。金髪を一つにまとめた蒼い眼。何の自信なのか不敵な笑みを浮かべた唇と双眸。左胸の辺りに輝く逆さ音符のブローチ。
 同じ顔をする、しかし性別の違う子供が二人。彼等が子供と形容していい年頃なのかは分からないが、彼等のような存在を一般的には少年、少女と呼ぶのだろうからきっとそれで間違いは無いはず。
 ――いや、そんな馬鹿な事を考えている場合ではない。

「《道化師の音楽団》・・・ッ!」

 逆さ音符銀のブローチ。狂いに狂った道化師達の《音楽団》団員である証し。見間違えようもない。
 反射的に懐からバタフライナイフを取り出す。愛用の得物は使わないはずだったから置いて来た。あれはどうにも嵩張るのだが――戦闘に対する意欲が無いばかりに、まさかこんな事態に陥るとは。
 自分の軽率さを呪う。渋い顔をしたヴェルトの得物はジャックナイフだったので彼だけが万全の状態だろう。まさか序列7位ともあろう者が得物を忘れるはずもない。

「――交戦は避けるべきか。奴等はどう見ても狂戦士じみているからな」
「逃げるの?」
「幸い、そっちのドアには誰もいないようだからな。足の速さならば子供相手に劣ることもない」
「分かった」

 ところで――《音楽団》のこの双子。有名なのだろうか。
 心なしか、ヴェルトの顔が蒼い気がする。
 そんな問い掛けを口にする暇も無く、目の前の子供から逃亡すべくクレアは地を蹴った。