10.

 部屋に帰って待っていたのは昼食を用意しているレクターだった。すでに全ての準備を終え、優雅に紅茶を飲みながら読書に勤しんでいる。部屋の主より部屋の主らしいというのはどうしたものか。
 無言で部屋に入ればカップを置き、本を棚へ直したレクターの視線が向けられる。

「――それで、どうなった?」
「明日からヴィンディレス邸の調査。やっぱり気乗りしないや・・・」
「具体的には、どうやって?」

 あまり突っ込んだ質問をしてこないはずの従者からの問い掛けに瞠目する。彼が知りたがるとは珍しい。
 心配してくれているのだろうか、そんなありもしない妄想を繰り広げながら決まった事を報告する。これだと主従というより兄妹か何かのようにしか見えない。

「ヴィンディレス邸の中と外に別れて周辺調査。ちなみに私はヴェルトと」
「――私は、あまり行かない方がいいと思うが」
「今更だよね、それ」

 そう、今更。
 今更やっぱり参加したくないなどと子供みたいな事は言わない、言えないし、何より自分一人が抜ける事で均等に割り振られた戦力を割いてしまうのは悪い気がする。

「――まぁ、私も結構仲間思いだってことかな」
「気をつけるといい」
「うん?」

 いつになく鋭い口調でレクターはほとんど独り言のように呟く。

「実に嫌な予感がする」

 ――なんて不吉な。