03.

「なぁなぁなぁなぁ!行こうぜ、なぁ!」
「どこに居るのかも分からないのに、どこへ行くっていうのさ」

 ――しつこい。本当に。
 舌打ちしたい衝動に駆られるが理性を総動員して我慢する。そもそも、最早目の前に鎮座する序列1位の考えは明け透けである。ブラッドはヴィンディレス姉妹の仇討ちに行きたいわけじゃない。ヴィンディレス邸を解体した《ローレライ》に興味があるのだ。
 それがすでに、気に入らない。どうしようもなく。
 《歌う災厄》になど会って――否、遭ってどうするつもりなのか。どのくらいの不幸体質なのかを推し量ろうとでもいうのか。馬鹿馬鹿しい。

「――そろそろ帰ったらどうだ、ブラッド」

 苛々と机を指の先でこつこつと打っていれば見かねたレクターが止めに入った。よく出来た従者だ。そろそろ彼を部屋から追い出さなければこの部屋が半壊する事は間違い無い。
 が、ブラッドは空気の読めない馬鹿だった。

「あぁ?何でお前に指図されなきゃなんねェんだよ・・・」

 なかなか首を縦に振らないクレアに苛立ちを覚えていたのは彼自身も一緒。張り詰めた糸のような緊張感が場を支配する。しかし、年長者の余裕からかレクターの表情に焦りは見られない。

「きみは、用事があってここへ来たんじゃないのか?いつまでも油を売っているわけにもいくまい」
「――チッ。俺が長居しねェ、って知ってたろ。お前」
「当然だ。そうでなければ茶など出さない」

 荒々しくもう一つ舌打ちし、ブラッドが肩をすくめる。

「伝達事項がある――よく聞けよ、序列2位のクレア」
「分かった。誰から?」
「3位からだ」

 短く応じ、静かに蕩々とブラッドは伝達する。先程までのチャラ男っぷりが嘘のようだ。

「明日は会議っつうのがある。何人揃うかは分からないが、俺が手ずから報せに来てやったんだ。お前は出席決定だからな」
「ふぅん・・・そういえば、活動らしい活動をするのって久しぶりだね」
「だから、最初からそう言ってんだろうがよ。ま、俺はそろそろ退散するとしよう。じゃあな」

 ひらり、と手を振り、あとは何の感慨も抱かずブラッドが背を向けて出て行く。
 残されたクレアは意味不明の奇声を上げ、ソファの背もたれに体重を預けた。