「そりゃねーぜ。ホント、お前等剽軽な奴等だよなァ!」
ぎゃははははは、と品の無い笑い声が響いた刹那。唐突に部屋のドアが開かれた。遠慮も何も、礼儀すらも無い何とも不躾な動作で。部屋は鍵付きなのだが、彼が来ると前もって知っていたので鍵は掛けていなかった。ドアを一枚無駄にする必要は無い。
金髪碧眼。切れ長の目。クレアが対峙するのは高すぎる身長。そして、浮かべられた邪気塗れの笑み。腕には赤いバングルが嵌められている。
「ブラッド。部屋に入る時はノックぐらいしなよ。ここは、女の子の部屋なんだからね」
「女の子ォ?おいおい!冗談も休み休み言えよ!この部屋のどこに女の子なんか」
「止めろ、鬱陶しい」
言い合いになり掛けたところを呆れ顔をしたレクターが止める。もちろん、大した意味も持っていなかったその不毛な争いは幕を下ろした。
そうして部屋に一つだけ備え付けられた高そうなソファに腰を下ろす。
そんな彼の名前はブラッド。《賢人の宴》内における序列1位。組織内で一番強い、存在。それに意味があるとは思えないが、それでも彼はその名を冠して好き放題暴れまわる暴君である。
「クレアちゃんよォ、もちろん俺が今回来た理由は分かってんだろうな?」
座ったと思えば立ち上がり、気安くその太く長い腕を肩に回してくるブラッド。鬱陶しいという意味を込めてその腕を払えばつれねェな、などと言ってからからと嗤う。
「あんたは仇討派だったっけ?言っておくけど私は事態収束を見守る派だからね。はい、話終わりっ!帰っていいよ」
「せめて茶ぐらい出せよ・・・悪かったから、なぁおい」
「でも話終わっちゃったし。どっちも喋らない気まずい空気の中、お茶とか飲みたい?」
「おまっ・・・!誰を前にして気まずい空気とか言っちゃってんだよ。俺だぜ、俺俺!」
「巷で流行りのオレオレ詐欺?そろそろ古いと思うけどな」
そうこうしているうちに無駄に有能な従者がカップを二つ持ってきて机に置く。相手がどうであれ一応の給仕はこなすつもりらしい。さすがは紳士。
が、居座る口実を見つけたブラッドは畳み掛けるように話を続ける。
「やり返した方がいいだろ。その方が面白ェ。それによ、最近何の活動もしてねーだろうが。そこを行くとヴィンディレス姉妹はよくやったぜ。停滞しがちな今の状況に良くも悪くも新しい風を吹き込んだわけだ」
「犬死した連中を神か何かのように崇め奉るのは賛同しかねるね。向かって行かなければ、無駄な犠牲者になることもなかったのにさ。それに、《ジェスター》を相手にすれば死人は一人二人じゃ済まないよ」
――だから早く帰したかったのに。
そういう意味を込めてレクターを睨みつければ涼しげな顔で視線を逸らされた。いくら従者とはいえど、彼は大人。子供であるクレアをあしらう事など容易い。
けどよ、とブラッドが嗤う。
「その歌い手、ってのを仲間に引き入れるのも有りだよな」
「ねぇよ馬鹿かッ!?あんた、さっき仇討するって言ってたよね?何そのどうしようもない矛盾!」
あまり関わりたくないんだって、という言葉を呑み込み、クレアは嘆息した。