「じゃあ、あたしはもう行くから。しっかしお前も酔狂な奴だよな。よりにもよってディラスと関わり持つなんて。ま、精々頑張れ」
投げやりな励ましと応援の言葉を投げつけ、蒼紅の彼女――マゼンダは早々に踵を返した。来た方向とは逆の方向へ歩いて行くから、恐らく通るついでに案内してくれたのだろう。意外にも合理主義者らしい。
さて、と真白もまた音楽家の部屋のドアをまんじりと見つめる。
特に緊張するわけでもないが、それにしたって何と報告すべきか。或いは、この選択は間違いだったのかもしれない。だから何だとそう言われそうな勢いである。
ドアをノックしようと手を伸ばす。
「あ・・・?」
刹那、まったく唐突にそのドアが開いた。中から出て来たのは部屋の主たるディラスその人だ。ばっちり目が合い、言葉に詰まる。
先に口を開いたのはディラスの方だった。怪訝そうな顔をしている。
「何をしているんだ、こんな時間に」
「何で外に居たことが分かったのよ」
「マゼンダの阿呆みたいに大きな声が聞こえていた。近所迷惑もいいところだな」
まったく、と肩をすくめるディラスだったが実に叔母さん臭いことを宣っているのだからまるで様にならない。
それで何の用なんだ、とまったく唐突に話を戻す。
ので、真白もまるで何でも無いことのように言ってのけた。ここで何か含みを持たせたり溜めたりしても意味が無いと思ったのだ。
「私、入団することにしたわ」
「――考えた結果か?僕には適当に流された結果としか思えないが」
考えた結果である。だが同時に、考えていない結末である。
が、それを彼に伝える必要は無い。それは決定事項であり、覆らない絶対だ。
「そうか。じゃあそれでいい。ならば、僕はお前に言わなければならないな」
「・・・何?」
室内にいたせいか、外された手袋。その手を真白に差し出し、ディラスはほんの少しだけ微笑んで言った。
「ようこそ、《
一瞬の戸惑い、その後――ゆっくりと真白は差し出された手を取った。