13.

 リンネの暴言により身の振り方を決めた真白は静かに立ち上がった。すでに侍女の姿は無い。言いたい事だけを言ってさっさと撤退した。本職は侍女じゃないんじゃなかろうか、彼女は。
 ともあれ、決断と同時。まずはディラスに報告すべきだろうと《歌う災厄》はゆっくりと部屋の外へ出た。
 ――そして立ち止まった。
 次どちらへ進めばいいのか分からない。自室の場所は分かるがその他の場所は皆目見当も付かない。というか広すぎるだろう、ヴィンディア邸。

「・・・馬鹿過ぎる・・・」

 自分の失態を自分でツッコミながら、深い溜息を吐く。何を浮ついているのか。慣れない事をしたせいで、気付かないうちに動揺しているのか。
 部屋を出たのはいいが今からどうすれば――

「あ、おいお前!」
「・・・?」
「お前だよお前!ディラスの連れっ!」

 快活な女性の声。
 そんな声が聞こえた方を振り返るとメイドと共に出会った蒼紅の女性が立っていた。何故か親しげに手を振っている。
 あっという間に距離を詰めたその女は上から下までじろじろと真白を眺めたのち、にっと笑った。

「よぉ。あたしはマゼンダ。ヨロヨロッ!」
「・・・どうも」
「名前は?」
「・・・真白」

 そうかそうか、と何が可笑しいのかマゼンダは笑う。裏表の無い綺麗な、どこかパワーに溢れた笑顔。リンネとは逆の人間らしい。
 そして、話の進め方が非常に強引だ。

「そういや真白っち!お前はなぁにキョロキョロしてんだよ。不審者にしか見えないって」
「いや、ディラスの部屋へ行きたくて」
「何?夜這い?いやぁ、やるねぇ!」
「違うけど。ちょっと経過報告」

 はぁ、詰まんね。と溜息を吐かれた。どうして彼女を楽しませなければならないのだろうか。甚だ疑問である。

「まぁいいや!あたしは親切だからな。案内してやんよ。ま、真白の部屋から奴の部屋はそう離れてないから安心しな」

 ほら行くぞ、と強引に腕を引かれてよろよろと廊下を進む。その間にも彼女は喋り続け、気付けばディラスの部屋の前に着いていた。