「――で、俺からの提案なんだけど」
「・・・突拍子の無いことを言うなよ。お前の図抜けた馬鹿さ加減はもう見飽きた」
んな理にかなわない発言をするつもりは無い、と言い切ったアルフレッド団長の視線が真白へと向けられる。彼女はマフラーの端を握りしめて黙って彼を見返した。この場面に陥ってなお何も言葉を発しないのが彼女らしさだろう。
「俺は《歌う災厄》たる真白を是非とも《
そう言って、恭しく団長――《クラウン》であるアルフレッドは真白に手を差し出した。その様は一屋敷の主からはかけ離れた、どちらかと言えば従者のようなそれであったがその恐ろしく分かり易い絵面を見て真白が初めて顔を強張らせた。
他人の感情を読み取る事に疎い彼女ですら覚える、畏怖と戦慄を以て。
そう――自分は、彼のこの真摯な眼差しに騙されて入団したのだ。同族である真白がそれを断れるとは思えない。
「――何を勝手に話を進めている。僕は反対だ」
「お前にゃ訊いてねぇよ。俺は、あくまで、この子の、意見を、訊いてんだからよ」
全ての単語を強調しにっ、と不敵に嗤う上司に眩暈さえ覚える。だから、真白をここへ連れて来たくなかったのだ。下手に死刑宣告を下されるより遥かにマシだが、マシだとしても最低最悪のマシパターンである。
「戦う為に真白は歌うわけではないし、そもそも敵を抹殺する為に歌うようになった真白には何の価値も無い。そうなれば、僕が彼女を連れ歩く意味も無くなるだろう?」
「ご都合主義だな、お前。そういう自分勝手な所は相変わらずだぜ。もう一度言うが、俺はこの子の意見を訊いている」
「何を言っているんだか。彼女の保護者は実質上僕だ。お前の意見などに左右されて堪るか。さらに言うならば、僕は真白を延々と連れ歩くつもりもない」
はっ、とその言葉をアルは嘲笑う。実に的外れな言葉を聞いた時のように――否、実際その通りなのかもしれなかった。
「見捨てるなら俺が面倒見るよ。金なら腐る程あるからな。ま、不便はさせねぇよ」
なぁ、どうする?
そう真白に問い掛けるアルフレッドを胡乱げな瞳で見やる。しかし、当の本人は大して何の感情も抱かない顔で団長を見上げていた。
「――どうでもいいわ。別に」
男二人が絶句して押し黙ったのは言うまでも無い。