黒い革のソファ。明るすぎない照明、黒い大きな机、黒い絨毯、白いカーテン――白と黒で統一されたその部屋。全て同じ意匠のそれは恐らく自分には到底及び着かないような値なのだろう、とディラスは溜息を吐く。
仕事人間、音楽中毒者でもある彼には家具などにお金をかける人間の気持ちがこれっぽっちも分からないのだ。が、それは逆も然りであることなど毛頭気にも掛けないのだが。
「――真白?」
部屋に鎮座する男の訝しげな視線に気付き、その先をたどれば未だ部屋の外でぼんやりと佇む少女の姿があった。図太い神経をしている子だと思ったのだが、何故かここに来て意味の分からない遠慮を見せているらしい。
久しぶりに彼女の人間らしい反応を見ながら、手招きする。
「入っていいから、こっちへ来い」
「・・・分かった」
なおもやや渋る様子を見せてから、ようやく真白は敷居を跨ぐ。恐る恐る、未知の世界へ足を踏み入れるかのように。
そうしてようやく館の主たる彼のターン。
「――おいおい、ディラス。誰その子」
訝しげな顔。もとは整っていたであろうその顔を盛大に歪めた男はそう問うた。彼の口調には傲慢さは欠片も見られず、どちらかというと友人に掛けるような気安い調子だ。対してディラスはそれはもう、真白と話す時よりも険悪な雰囲気のまま、実に不機嫌そうな口調である。
「僕の連れだ」
「はぁ?連れ!?うっわ、何それ面白ッ!」
笑いこそしなかったがもうそのリアクションにはそろそろ飽きる頃である。
そんな彼の名前はアルフレッド=ヴィンディア。屋敷の主であり《
大分慣れたのか、ちょこんと隣に並んだ真白は実に冷めた目を団長たる彼へ向けている。それはもう、爬虫類のような瞳だ。
「私、この人苦手かもしれない」
「・・・・・・奇遇だな。僕もそうだった」
部屋に入らなかったのは緊張や遠慮からではない。それは恐らく、ソファに鎮座するアルフレッドへの本能的な嫌悪。
初対面の時は自分もそうだった。失念していたが、真白とは同族なのだからこういった現象が起きても何もおかしいことではない。数年前の自分を見ているようで、ディラスは僅かに口角を上げた。