屋敷内。先頭に立って案内するのは先程の侍女、メイド――リンネだった。これもついさっき気付いたのだが、彼女からはリンリン、という微かな鈴の音が聞こえる。
ぼんやりと一定のリズムを刻むその音を聞きながら後に続く。
ここ、ヴィンディア邸――ヴィンディレス邸と若干雰囲気などが似ているものの、主人の違いか根本の部分は大きく違うような違和感。そして、とても仲間同士とは思えない彼等の張り詰めた空気。
団内事情など真白の知ったことではないが、それにしては殺伐とし過ぎじゃなかろうか。
団体行動など遠い昔に捨ててしまった彼女にとってみれば組織というのはそう単純ではないという事が分からなかったのだ。
「――ディラス様」
「何だ」
不意に前を向いたままでリンネが口を開いた。鈴とか可愛らしいイメージの彼女だったが、発した声は冷たく、まるで機械のような単調さだ。
「隣の少女は何なんですか?」
核心を突く一言にディラスが眉根を寄せる。
「お前に教える必要は無い」
「そうですか」
音楽家は会話をする気が無いようだ。
前にも似たような――つまり既視感を覚え、知らず知らずのうちに溜息を吐く。しかし、屋敷を預かる侍女の方もそれだけに留まらなかった。
「何者か分からない人間を、主の前へ通すわけにはいきません。彼女が何であるのか、釈明を。ディラス様」
ちらりと彼を見上げた少女はそこで初めて口を開いた。
「前と同じように言えばいいのよ。間違っちゃいないのだから」
「――お前は・・・いや、何でも無い」
言い掛けた言葉を打ち消し、リンネの背へとディラスが解答を投げる。
「彼女は僕の創作活動に必要な資料だ。それ以外の何でもない」
「――それは、生きている人間に向ける言葉とは言い難いですね。軽蔑、します」
辛辣に冷徹に言ってのけたそのメイドはようやっと足を止めた。大きな扉の前だ。そして、こちらを振り返る。
「我が主が貴方方を待たれている部屋です。けして、粗相のないように」
そう言って、侍女が扉を開け放つ。
荘厳な扉に物怖じしていれば、ディラスが何の躊躇いも無く開いた扉から中へと入った。