朝食を終えたと同時、その日のウォーキングが始まる。お散歩と言えば聞こえは良いが実は目的地へ向かって延々と歩かされているだけであり、更にはお喋りが楽しい相手というか真白自身も誰かと話すのを好まないがために終始無言。お喋り好きで陽気、などという性質を持った人間がいれば窒息死するレベルの空気感である。
しかし、目的地へ辿り着く為の最終日にしてようやく、彼女と彼は会話らしい会話をしていた。
「《
「文面通りに物事を受け取るタイプだな、お前は。素直な人間は悪くは無いが面白味に欠けるぞ、真白」
「うん、それはどうでもいいのだけれど。逆さ音符っていうのも腑に落ちないわ」
ふむ、と一つ頷いたディラスは言葉を選ぶかのように暫し黙り込んだ。彼は答えたくない事に関して無視を決め込む人間ではない。答えたくないと堂々と言い放ち、相手を不快な思いにさせる人間である。
案の定、一体何の為の考える時間だったのかと問いたくなる程に音楽家は明瞭簡潔な答えを寄越した。
「音楽団だ」
「頭沸いているんじゃないの?」
どこに殺し合いに精通した音楽団があるというのか。
割と本気で前を歩くディラスを殴りたい気分になったが普通に返り討ちになるのは目に見えているので我慢する。
そして《道化師の音楽団》構成員である彼自身もさすがにその説明は無いと思ったのか一つ咳払いして場を仕切り直す。
「音楽団だ、という解答自体は変わらないんだがな・・・。お前が望む通りに説明するのだとすれば《自分達に降り掛かる火の粉を払いつつ音楽活動に勤しむ団体》だろうな」
「だから武装しているの?」
「武装しているわけじゃないさ。必然的にそうなっただけだ。構成員全てが《ローレライ》。楽器を持たせれば全員が武装済みだということになる」
「物騒な団体ね。私だったら近づくのだって願い下げよ」
そうだろうな、と素っ気なく頷いたディラスはしかし、音楽団体であるという事実を曲げるつもりは無いらしい。ので、真白の勘違い或いは間違いを正そうと躍起になる。
「何故《ローレライ》だけを集めているのかは知らないし興味も無い。だが、本来は奏でる事を目的とした集団だ。あぁだが、これだけ《ローレライ》が一カ所に集まっていればそれだけで他組織の目を惹いてしまい、ヴィンディレス邸のような事件が起きたわけだがそれだって例外と言えば例外だろう」
「・・・よく分からないわ」
「もういい。お前に何かを説明しようとした僕が馬鹿だった」
若干怒ったらしい。ディラスが目を合わせてくれなくなった。
――彼のこういう所は実に幼稚である。真白のような少女に指摘されることでもないのだが、それにしたって極稀に非常に精神年齢の低い事を言う。
前を向き、頑として振り返らないという意志を貫く音楽中毒者がぽつりと呟いた。
「――本当ならばお前を《音楽団》へ連れて行くつもりは無かった」
「え?」
「僕だけが殺し合いに精通しているわけではない、と言った。最近は火の粉と蠅を払うのに忙しいらしい。物騒なことだ」
どこか遠くを見て呟くディラスに人の気持ちがまるで汲めない真白は首を傾げるばかりだった。彼女が他者の気持ちを理解出来ないのは今に始まったことではないが。
「だが、背に腹は代えられない。お前を連れて行けば団長とその他諸々が騒ぎ立てるだろうが、全てを無視しろ。入団は勧めない」
「――えぇ、分かったわ」