14.

 半壊した車椅子とその持ち主であった女性の首切り死体。落ちたシャンデリアに崩れた壁、壊れたピアノ――人の血でほとんど赤く染まった、もとは真っ白な部屋。
 それは実に悲惨な状況だった。
 殺人事件にしてはいっそ清々しい程の破壊ぶりだし、とにかく容赦が微塵も感じられない。人為的なものと言うよりは――そう、災害、災厄そういう類の言葉が当て嵌まりそうだ。

「――暗殺者の方が逃がしたか。まぁいい。この程度の損害で済んだのならば御の字だろう」

 壊れたヴァイオリンを拾いながらディラスが独り言のように呟く。事実独り言だったのだろう。必要以上に真白へ何かを問い掛けたりはしない。

「いいの?逃がしちゃって」
「追うつもりならば止めておけ。依頼主というお荷物が無くなった以上、奴は更に強いだろうし僕も楽器を失ったからな。再戦したい気分じゃない」
「ふぅん」
「奴が僕達を追うつもりも無いだろう。所詮雇われだ。失敗して根に持つ役職でもない」

 まったく、これっぽっちも不安そうにしないのでそんなものか、と納得する。それよりも重大な問題は今からどうするのか、だ。
 そんな真白の心中を見越したかのようにディラスがヴァイオリンをケースにしまいながら口を開く。

「次の行き先が決まった」
「どこ?」
「《道化師の音楽団クラウン・パーティー》の本拠地だ」
「・・・どうして?」
「見ての通り、ヴァイオリンが壊れてしまった。調律のために調律師に預けていた愛用のヴァイオリンを取りに戻らねばならない」
「楽器調達のため、ってこと?」
「そうとも言うが――そうだな、お前の事に関しては移動中にどうするか決めよう」

 そう、と無感動に頷いた真白は部屋を出る際、一度だけその部屋を振り返った。
 自分が踏み潰し、踏みにじったものを確かめるように。

「行くぞ」
「――えぇ」