07.

 不意に真白は立ち上がった。あまりにも部屋の中も外も静か過ぎてさすがにここでじっとしているのも限界を感じていたからだ。ここから出ない選択をするには、現状はあまりにも真白自身に有利過ぎる。
 そしてもう一つの理由として――勘。何となく、今外へ出なければならない気がしたのだ。
 曖昧にして不明瞭なその理由だったが、もともとは自分のやりたい事をやりたい時にやるのが真白のポリシーであり、それは監禁中の身でも変わらない純然たる事実だった。

「音がする。何の音だったかな」

 考えながら――逆説、何も考えずにノブに手を掛け、ドアを開ける。
 そして、絶句した。
 表情こそ変わらなかったがそれでも彼女はそれなりに驚愕し、言葉を失った。
 ドアの向こう側は意味の分からない惨状が広がっていた。落ちたシャンデリア、倒れたスーツ姿の屈強そうな男達、めくれた絨毯、倒れた置物、低い呻き声――
 それら全てが現状の異常さを物語り、真白の脳内に警鐘を響かせる。
 まるで――そう、まるで、災害後のような光景。

「――でも、私には関係の無い事だよね」

 誰に言うのでもなく自らにそう言い聞かせ、倒れた人間を避けながら闇雲に歩き出す。セドリックと名乗ったあの男に案内された時の道などとっくに忘れた。明確に目的があるような足取りだが、実際はまるで目的無く迷い歩いていると言う方が正しい。
 ふらり、ふらりと歩いているとあの宿で聞いたようなピアノの音が聞こえた。

「・・・・・こっち、か」

 行くべき場所も分からない状況で灯台の明かりのように響いて来たピアノの音。もちろん奏でているのはレイラであり、真白はそれを知らないのだがその音を頼りに、その音を探すように歩みを進める。
 それは指針。
 人が居るという証拠なのだから。