03.

 レイラもセドリックもいなくなった事で一つ問題が生じた。
 ――非常に退屈である。何もすることがない。部屋には色々あるのだが、それでも難しい本だったり紙とペンだったりおよそ真白には縁のないものばかりだった。
 高校は歌手デビューしてからというもの形だけの在校になり勉強らしい勉強はしていない。天才というのは一つのものにだけ秀でた存在であり、全てが出来るのならばそれはただの化け物に他ならない。
 よって、真白に歌う才はあったとしても勉強は並以下、運動も並でそこらへんは同年代の人間と何ら変わらないのである。
 ふんふふーん、と鼻歌を歌いながら本を漁ってみる。
 音楽の本ばかりだし、何かの評論などやはり読もうとは思えないジャンルの物ばかりだ。早々に心が折れそうになりつつ、更に探す。
 本棚の三段目に手を伸ばしたその時、がちゃりと鍵が開く音が聞こえた。
 今度は誰が来たのだ、とドアの方を見て現れる人物を待つ。しかし、鍵を開けたと思わしき人物は一向に顔を出さない。

「・・・何?」

 静かな声でドアに問い掛けてみるがもちろんのこと返事は無い。さすがに不審に思い、真白はドアに手を掛けた。鍵は開いているのだから外へ出られるのではなかろうか、と。手を掛け、ノブを回し――
 回りきったところでノブから手を離した。実は開いていなかった、のではない。何の抵抗もなく回ったノブはすなわち鍵が開いている事を意味する。しかし、しかし。
 そこで考えた。どうしようもなく、冷静に、沈着に。普通は考える場面ではないところで真白は考えたのだ。
 ――ここから外へ出たとして、はたして誰にも見つかること無く外へ出る事が出来るのか。仮に出られたとして、その後はどうすればよいのか。
 死に物狂いで逃げ出す場面でそんな馬鹿で阿呆で何より論理的にそう思った。
 よって彼女が取った行動は単純明快。動かなかった、それだけ。黙って檻の中に居続けることを望んだ。自ら。
 小さな小さな声で懐かしいメロディを口ずさみながら。