07.

 隣町へ行く、とそう言ったきり黙ったディラスの背をこれまた黙ったままに真白は追い掛ける。さっきからずっとこの調子で二人の間に会話はまるで無かった。あったとしても精々必要事項を最低限伝え、答えるだけ。実に殺伐とした光景である。
 そんな沈黙に耐えかねたのは言うまでも無く真白の方だった。

「次に行く街はどんな所なの?」

 ちらりと真白の方を一瞥したディラスはやや考えるように黙った。ので、答えを待つ間再び沈黙が場を支配する。

「――さっきいた街とさして変わらない所だ。少しだけ広い程度だろうな」

 会話終了。
 さすがに呆れ返りそれ以上何か言う事を早々に諦めた。会話するのに神経をすり減らすなど耐え難い。
 しかし、一言喋った事で伝え忘れた事項を思い出したディラスの方が今度は淡々と言葉を飛ばした。

「お前は、このブローチに興味を持っていたな」
「・・・えぇ」

 ディラスの胸の辺りを飾っている銀色のブローチ。逆さ音符を象ったそれに何かしら意味があったとは思えなかったが。

「これは所謂名札のようなものだ。僕や他の連中は常に身元を晒して歩いている事になる。もちろん、街にはこれの意味を知っている人間もいるだろう。だが、知られているからこそ安全だ。よって、お前は僕から勝手に離れてはいけない」
「意味が分からないわよ」
「人質にされたいなら勝手に出歩いて構わないがな。その場合はこの街が丸々一つ消えることになりかねない。街に住む全ての人間より、お前の方が僕にとっては価値がある」

 詰まるところそれは「住人全てを巻き込んで、殺してでも真白を救出してやる」という意味だったのだがそれが真白に伝わったのかは怪しいところである。
 が、もちろん彼女自身も人質だの何だのと言った物騒なものに関わりたくは無いので特に深く考えること無く頷く。

「分かった。だけど、見ての通り私は全然まったくこれっぽっちもこの世界のことを知らないわ。そっちも私の事を気遣うべきでしょ?」
「ふん、いいだろう。まったく傲慢な」
「自己防衛よ。人質なんて冗談じゃない――逆説、冗談でも嫌ね」

 肩をすくめたディラスはそれっきり後ろの真白を振り返ることはなかった。