06.

「――だが」

 当惑していればディラスが歌うように呟き首を振った。

「僕はお前の歌に見合う楽譜を書きたい。言っておくがお前の為でじゃないぞ。私は音楽家であるのだから、素晴らしい歌に見合う譜面を創りたいと思うのは当然のことだ」
「貴方がその楽譜を創ったとしても、私がそれを奏でるかどうかは分からないわ」
「そうだろうな。だが、歌わせたいと思わせてみせよう。僕自身のプライドに懸けて」

 そう言ってディラスは自らを指し示す。それは真白と何ら変わらない一つのものにしか執着出来ない人間の姿だ。
 しかし、ここではい歌いますと言えば彼はそのまま去ってしまいかねない。いくら相手の心の機微に疎いとはいえそれだけは分かった。よって、真白は容易には頷かない。黙って彼が提示する最安値を待つ。

「出来れば今すぐに歌って貰いたいがまあ、嫌々歌わせるのも意に反する。どうだろう。僕が楽譜を完成させるまで、行動を共にするというのは」
「・・・連れは要らないんじゃなかったの?」
「連れは要らない。だが、パートナーが要らないとは言っていないだろう」

 それは詰まるところ同じ意味ではないのか。
 そう思ったがここで置いて行かれると真白は確実に野垂れ死ぬ事になってしまう。それだけはどうあっても勘弁願いたかった。
 よって、深く言葉の意味を追求することなく是と頷く。
 満足そうにやや微笑んだディラスはくるりと背を向ける。

「では、行こうか。まずはこの街を出なければならないだろう。《ローレライ》が二人も滞在していると知られているからな。長居は危険だ」
「分かった」
「真白。お前、路銀はどのくらい持っている?」
「持っていないわ」
「――愚問だったな」

 さぁ――今からどれだけ続くか分からない歌えない毎日禁欲生活が始まる。